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ハツさんの言葉に「なぜ」と問い返した声は果たして出ていたのだろうか疑わしい。喉の奥がべたりと張り付いたように気持ち悪い。
私の顔を伺うようにハツさんがこちらを見ると、一瞬だけ視線が絡み、だがすぐに解かれてしまう。
「ごめんなさい」
震えるか細い声。
「も、……元々、私のような者では身分不相応でしたね。だ、大丈夫です」
私の声も不恰好に震えていた。身分だけでなく、私自身にも良い所など無いのかもしれない。それで愛想を尽かされた――そう言う事かもしれない。
だが、ハツさんは「え?」と首を傾げた。そんな姿さえ、一つ一つ愛らしいが、それも今日で見納めになるのだろう。
「お待ちください歳助様」
ああ、まだ少し猶予をいただけると言う事か。この刹那の刻に感謝しなければならない。
私は休憩処に腰を下ろしたまま八幡様へと向き直すと手を合わせた。
「歳助様?」
「お気になさらず」
「あの?」
「…………ありがとうございました」
私は八幡様に頭を下げると、再びハツさんと向かい合う。
「最後になりますが――」
ハツさんへ挨拶を申し上げる声を遮られてしまう。
「何故ですか?」
「何故?」
「どうして最後なのですか?」
ハツさんの瞳が潤んでいた。かと思えば、ほろりと一筋雫が頬を伝う。それでも視線は逸らす事なく私を見据えていた。
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