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第1章
佐々木さんちは、京都のでかい神社である。
えらいざっくりした説明だと思われるかもしれないが、ざっくりでかいから仕方ない。とりあえず敷地がざっくり広い。
そこの宮司は、佐々木正嗣。なんとなく神社に合いそうな名前だが、婿である。ちなみに旧姓は鈴木という。
「ねえ、まーちゃん。風悟は?」
夕刻、社務所で札やらなにやらの整頓をしている正嗣の隣に足を崩して座り、ちょっと不貞腐れたように喋るのは、佐々木家に仕える式神・桃だ。
見た目は15、6歳ほど。2本の角は露になった額から天に向かって伸びていて、後ろにまとめられた漆黒の長い三つ編みは、1本の太い縄のように腰まで垂れている。きりっとした眉と猫のような大きな目元は、女子高生というよりはお局様のように鋭い。
「風悟はデートや、桃」
50代にしては髪は黒く、目鼻立ちははっきりしていて男前の部類だが、笑顔は柔和で温厚な雰囲気を醸し出している正嗣は、高校の数学教師だ。身長は息子の風悟とさほど変わらず高くはないが、柔道の有段者ということもあり、体格はがっちりしている。
「不純異性交遊ね」
桃は、真っ赤に紅が引かれた小振りな唇を、つんと尖らせて立ち上がる。
白い着物は所々に金銀の刺繍が施され、ハイウエスト気味にしめられた紺鼠の帯は、腰のくびれを強調しており、日本的な着物とはちょっと違う。全体の印象はすらりとした美人なのに、鼻の低さがきつい印象を愛嬌に変えている。
「そんな顔をしてると、風悟に嫌われるぞ」
正嗣は札から目を離さずに、穏やかな声音で話す。
「あいつだって年頃なんや。放っておいてやれ」
「放っておいて、神社をつがないって言い出したらどうするの」
「それはないな。結局はやっくんだって継いどるんやし」
ちっ、と桃は舌打ちをした。
「ユキがいるからでしょ。あいつ、男のくせにあんな可愛いなんて詐欺だわ」
うーん、と正嗣は手にしたお札を軽く振る。
「桃、お前だって十分可愛いよ。第一、俺にはユキちゃんが見えへん」
正嗣の手元でゆらっと動くお札をつまみあげ、桃は慣れた手つきで他のお札と共にきれいに並べる。
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