エミーとマリー

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 松坂屋銀座店屋上で営業する五メートル四方の釣堀は、背広姿のサラリーマンから親子連れ、カップル、様々な層の客で賑わっていた。  空を見上げると五年前に完成した赤い鉄塔の先端がビルの谷間に見えた。 「東京タワー」 「え」  萌葱色の小紋姿の女が呟いた言葉にライトブルーが基調となった花柄のワンピースを着た女が反応した。  小紋の女は真っ白な日傘を差し、ワンピースの女は白いつば広の帽子を被る。釣り堀という場所にはあまりにも不似合いな二人の女には自然、周囲の視線が集まっていた。  しかし彼女達は好奇の目など気にする様子もなく釣竿が垂らす糸の先を見つめていた。
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