エミーとマリー

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 一日の中でもっとも高い位置から降り注ぐ陽光が作る水面の乱反射に小紋の女は眩しそうに目を細めた。 「少し前まで、ここから見えたの」 「東京タワーが?」 「そう」  東京五輪を間近に控えた街は、瞬く間にその姿を変えていった。人の心はその変遷に付いて行っているのだろうか。 「東京タワーは、私の中の東京の象徴なの。五年前、初めて東京に来た私を、一番最初に出迎えてくれたから」  小紋の女の言葉にワンピースの女は水面を見つめたままゆっくりと口を開いた。 「エミーは上野から新橋に入ったんだったわね。あたしは新宿だったから、ちょっと違う」
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