昭和33年3月 弘前 エミー

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 アイツらが来る!  キッと顔を上げた恵美子は母の手を、優しく布団の中に戻した。 「お母さん。ごめんね。私は、お母さんとの約束通り、生きる為にここから逃げるね」  立ち上がった恵美子は止め処なく溢れる涙をグイッと手で拭った。  着崩れていた着物を勢いよく脱ぎ、壁に掛けてあったセーラー服を着た。この屋根裏に駆け込んだ時床に放った短刀を拾う。べったりと付いた血を、脱ぎ捨てた着物で拭き取った。  この短刀は捨てていけない。それからそれから。  足音が近づく。恵美子の鼓動が加速する。階段を上り始めたら直ぐだ。焦る心が鼓動を加速させ、手を震えさせた。
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