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 ふたりの仕事は、『祓い屋』である。主に幽霊を除霊、成仏させる。大々的に看板を出しているわけではないのだが、それでも時々、『祓い屋 月崎兄弟』宛てに、依頼が舞い込んでくる。聡はそんな依頼人たちから、決して安くはない金を受け取る。そして、また次の依頼が来るまで、こうして家計簿と睨めっこをしながら生活をしているのだ。  しばらくの間、優が鉛筆を走らせる音と聡の電卓の音が居間に溢れていた。ストーブが延長を迫る音を出すと、優がこたつから這い出て延長ボタンを押した。  冷蔵庫は申し訳なさそうにモーター音を低く唸らせる。  カチカチと縮こまるように音を立てていた時計が十一時を指した頃、遠くから一台のバイクの音が聞こえてきた。徐々に近づいてきたその音が、庭先で止まる。 「……あ、郵便屋さんだ!」  顔を上げて時計を確認した優は、スケッチブックを弾き飛ばす勢いで素早く体を起こすと玄関へと走っていった。玄関の扉を開ける音とともに、「お疲れ様です!」と叫ぶ声がした。 「来たよ、依頼!」  勢いよくリビングに戻ってきた優の様子に、聡はため息をつきながら家計簿を閉じた。  聡の横で優は扇のように三つの封筒を広げる。その中からから依頼書と書かれた薄い青色の封筒を手に取り、封を切る。優はその様子を聡の背後から覗き込んだ。 「うわぁ……楽しそうだね」  聡と一緒に依頼書に目を通すと、優は屈託なく笑った。子どものような、まじりっ気のない、好奇心に満ちたその瞳。  そんな兄を振り返って、聡は何度目かもわからないため息をついた。
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