2

1/3
前へ
/19ページ
次へ

2

 商店街が主婦たちで賑わい始めた十一時。兄弟は朝九時に家を出て、やっとこの商店街に着いた。ここは、東京などとは比べ物にならないが、それでも、兄弟の住む過疎地域よりは賑わいを見せている。  古本屋に足を踏み入れた兄弟が店主に声をかけると、「あなたたちが月崎兄弟のおふたりですか……?」と疑いの目を向けられた。  それもそのはず、聡は営業マンのように身だしなみをしっかりと整えたスーツだが、優はぼさぼさの頭でニットのセーター姿。しかも、セーターはところどころがほつれている。誰がどう見ても『祓い屋』には見えない。  『祓い屋』と聞いて思い浮かぶ服装があるかと問われたら、誰も答えられないだろうが。  兄弟に依頼したのは、古本屋の店主、山本(やまもと)明日香(あすか)。 「最近、この店に幽霊が出るようになって、お客さんも怖いって、来てくれなくなってしまって……」  一通り挨拶を終えると、優はすぐに店内をうろうろと歩き始めた。背表紙に触れたり、本を取り出してぱらぱらめくったりしている。読んでいるというより、眺めていると言った方が良いかもしれない。  そんな、猫のように自由な兄とは対照的に、弟は淡々と話を聞き出す。 「最近というのは?」 「私が店を継いでからなので、一月前です」 「店を引き継ぐ前の店主は?」 「私の祖父です。今は入院していて……」  優はふたりの近くの本だけでは飽きたのか、ふらふらと店の奥へと歩いて行く。 「あの……」  その様子が気になった明日香は、聡の質問を遮って聞いた。 「何でしょう?」 「弟さんは、何を……?」  聡はメモ帳に目を落としたまま、優を見向きもしないで言った。 「あれは兄です。放っておいてください。いつもあんな感じですが、邪魔はしません」  それだけ答えると、聡はまた淡々と質問を再開した。  明日香は質問に答えながらも、そんなふたりの様子に、少しの不安を抱いた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加