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商店街が主婦たちで賑わい始めた十一時。兄弟は朝九時に家を出て、やっとこの商店街に着いた。ここは、東京などとは比べ物にならないが、それでも、兄弟の住む過疎地域よりは賑わいを見せている。
古本屋に足を踏み入れた兄弟が店主に声をかけると、「あなたたちが月崎兄弟のおふたりですか……?」と疑いの目を向けられた。
それもそのはず、聡は営業マンのように身だしなみをしっかりと整えたスーツだが、優はぼさぼさの頭でニットのセーター姿。しかも、セーターはところどころがほつれている。誰がどう見ても『祓い屋』には見えない。
『祓い屋』と聞いて思い浮かぶ服装があるかと問われたら、誰も答えられないだろうが。
兄弟に依頼したのは、古本屋の店主、山本明日香。
「最近、この店に幽霊が出るようになって、お客さんも怖いって、来てくれなくなってしまって……」
一通り挨拶を終えると、優はすぐに店内をうろうろと歩き始めた。背表紙に触れたり、本を取り出してぱらぱらめくったりしている。読んでいるというより、眺めていると言った方が良いかもしれない。
そんな、猫のように自由な兄とは対照的に、弟は淡々と話を聞き出す。
「最近というのは?」
「私が店を継いでからなので、一月前です」
「店を引き継ぐ前の店主は?」
「私の祖父です。今は入院していて……」
優はふたりの近くの本だけでは飽きたのか、ふらふらと店の奥へと歩いて行く。
「あの……」
その様子が気になった明日香は、聡の質問を遮って聞いた。
「何でしょう?」
「弟さんは、何を……?」
聡はメモ帳に目を落としたまま、優を見向きもしないで言った。
「あれは兄です。放っておいてください。いつもあんな感じですが、邪魔はしません」
それだけ答えると、聡はまた淡々と質問を再開した。
明日香は質問に答えながらも、そんなふたりの様子に、少しの不安を抱いた。
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