2

2/3
前へ
/19ページ
次へ
 薄暗い店の奥へと足を踏み入れた優は、一番奥まったところにある棚の前で、一人の男が立っているのを見つけた。まだ十代に見えるその男は、大人と子どものちょうど間くらいの顔つきをしている。 「こんにちは」  男はじっと棚の一点を見つめていた。優の挨拶は聞こえていないようだった。  優も男が見ている場所へ目を向けたが、そこには日本の文豪の作品が並んでいるだけで、面白いものは見つけられなかった。 「何か探してるんですか?」  その質問にも、その男は答えない。 「あの、聞こえてますか?」  おーい、と優はその男の前で手を振った。  それでも男は瞬き一つ返さない。  寝ぼけているのかと、優はその男の肩に手を伸ばした。 「兄貴」  優の手が肩に手が触れる前に、聡の声が聞こえてきた。 「そろそろ戻って来い」 「……はーい」  優は聡に聞こえるように答えると、男の方を何度か振り返りながら、弟の元へと歩き出した。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加