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薄暗い店の奥へと足を踏み入れた優は、一番奥まったところにある棚の前で、一人の男が立っているのを見つけた。まだ十代に見えるその男は、大人と子どものちょうど間くらいの顔つきをしている。
「こんにちは」
男はじっと棚の一点を見つめていた。優の挨拶は聞こえていないようだった。
優も男が見ている場所へ目を向けたが、そこには日本の文豪の作品が並んでいるだけで、面白いものは見つけられなかった。
「何か探してるんですか?」
その質問にも、その男は答えない。
「あの、聞こえてますか?」
おーい、と優はその男の前で手を振った。
それでも男は瞬き一つ返さない。
寝ぼけているのかと、優はその男の肩に手を伸ばした。
「兄貴」
優の手が肩に手が触れる前に、聡の声が聞こえてきた。
「そろそろ戻って来い」
「……はーい」
優は聡に聞こえるように答えると、男の方を何度か振り返りながら、弟の元へと歩き出した。
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