表/裏

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「偽物って何?」 「カバンのこと」  絵梨が素直に答えた。 「それ?」 「そう。唯衣ちゃんの」  素直すぎて嫌になる。  怜奈はバッグを見て顔をしかめた。  何も言わない。  変だ。気になる。  けど、何で偽物だと分かったのか、そっちのほうが大問題。絵梨に訊く。 「どこが偽物?」 「ここ。端っこだから分かりにくいけど、ちょっとマーク歪んでない?」  苦情半分に言ったけど、それに全く気付いていないような答え方で返してきた。  この子に怒ってもどうしようもない。  一呼吸置いて、指差した場所を見た。  持ったら裏側の端になる部分。  確かにそこだけ隣のロゴと微妙に違っていた。  言われるまで全然気づかなかった。  エミルさんはそれを分かっていて出品していたのか、それとも気付いていなかった?  どっちにしても、連絡を取りたい。    もうすぐ講義が始まるけど、後回しにできる気分じゃなかった。  バッグからスマートフォンを取り出して操作。画面に集中していると怜奈が横から声をかけてきた。 「フリマで買ったって言ってたよね。どこの?」 「…怜奈が教えてくれたところ」  聞いてたのかと思いながら答えた。 「名前は?」 「え?」 「使ってる名前」  フリマでの名前のことだった。そっちは? と返したら、エミルだと答えた。 「嘘」 「本当。タイミング同じだし、もしかしてって思ったんだけど…」  こんなに近い相手と売り買いをしていたのは意外。  怜奈も驚いていた。 「あいつ、偽物渡してくるなんて」  私と絵梨には構わないで、誰かに怒り出した。 「あいつって?」 「元カレ。二股以上のことされたから別れた」  私の質問にさらっと答えて、愚痴りだした。
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