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言い訳の在庫
『アメリカズ・ゴット・タレント』って番組、ご存じでしょうか?
アメリカのオーディション番組です。
先日、YouTubeで2016年優勝者である「グレース・ヴァンダーウォールの優勝までの軌跡」を観ていて、その圧倒的な才能に胸を打たれて、涙がちょちょ切れました。
こういう「マジの本物」が出てきて、「自分にはちょっと才能がある。もしかしてなんとかなるかもしれない」と思っている人たちを、ボッコボコに蹴散らしていくっていうシチュエーションが、ほんとうに好物だなあと改めて思いました。
で、この手のやつを感動のなか観終わると、ふと「たぶん、才能がないのかもしれんなあ」とかなんとなく分かってきた自分に、「実は才能がないと分かってからの方が人生は長い」という受け入れがたい現実がめちゃくちゃ重くのしかかってきます。
夢も希望もありゃしません笑
20代のころ、シナリオだ、小説だ、といろいろ書いて公募に出しては落ちる日々を過ごしていたぼくの一縷の希望は「江戸川乱歩もタモリもデビューは三十歳」というものでした。
それで、なんとかかんとか踏ん張って書き続け、気がつけば、三十なかばになり、そのつぎに自分へ言い聞かせていたのは、専門学校を卒業するときにみんなで冷やかし半分で行った原宿の母に言われた、「三十四までは苦労しても報われない。三十五から少しずつ右肩上がりになる。あんたは大器晩成型だ」というものでした。
占い自体は好きなのですが、当時のぼくは二十二歳。
成功が果てしなく遠く感じて、「おいおい、勘弁してくれよ」と思いました。
そしてさらに、「努力すれば努力するほど、運気が上がる人だ」ともいわれました。
ぼくは思いました。
「楽して金が稼ぎたい」
でもそんな上手くいきませんよね、人生。
「悲しさや辛さの中にしか、本当の人生はない」と、よく言われます。
正直、「そんなもんクソ食らえ。楽しいだけの偽物の人生を送りたい」という気持ちでいっぱいですが、上の言葉には多くの真実が含まれている気がします。
正直、どんどん色んなものをすり減らしてたどり着いた現在、昔よりはるかに、人に優しい人間になれているような気がします。
それが良いことか悪いことかは分かりませんし、もうたぶん昔のように「野心」や「怒り」を種火にしてなにかモノを書くこともできなくなったような気もしますが、そのかわり、もうちょっと人生や人間を、多面的にとらえてモノが書けるようになったのではないかなあとは思います。
創作における牙は抜けたけれど、その痛みを知ることはできたのかもしれません。
それにまだ、言い訳の在庫はひとつ残っています。
『拳闘士の休息』という、とても素晴らしい短編集がありますが、それを書いたトム・ジョーンズは、表題作でデビューしたのがたしか四十過ぎなんですよね。
それを言い訳にしてまだ書いてるみたいなところはありますが、そもそもこれ、「才能があることを前提にしての言い訳」なので、才能がないかもしれない自分には、あまり意味のある言い訳ではないですね笑
まあ、いつもどおり、肩の力を抜いて書いていくだけです。
とりあえず今夜はグレース・ヴァンダーウォールのアルバム聴きながら。
久々になにも考えず筆にまかせて書いたので、今回は特にオチはありません。
失敬失敬。
ではでは、今日はこのへんで。
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