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教訓を得る男
どこまで遡って思い出話をしたほうがいいのかなーっと、思っていて、ふと思い出した、なんてことない話をひとつ。
みなさんは『ぼくのエリ~200歳の少女~』という映画をご存じでしょうか? どこにも居場所がない少年オスカーが、ある日、エリという謎の少女と出会う、儚くも美しいボーイミーツガールものです。傑作なので、未見の方はぜひ。
原作はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説『モールス』で、こちらは群像劇になっていて、この世界観をより深く描いているので、読み応え抜群です。
ほんとうに大好きな小説で五回以上は読んでいます。
基本、東京にいるときは通勤と帰りの電車のなかで読書をしていました。
そして何回目かの『モールス』を「うひょひょ、おもしれー」と思いながら読んでいるときに、その事件は起きました。
とある駅にて、座席で『モールス』を読んでいるぼくの前に、カップルと思われる高校生くらいの男の子と女の子がやってきました。
これくらいのころの、恋愛状態にある人は、自分たちだけの世界に浸っているんでしょうね、こんな会話が聞こえてきました。
「ねえ、わたしと別れたら、さみしい~?」
「う~ん」
「ねえ、どうなの~?」
「う~ん」
みたいなのを目と鼻の先で繰り返しています。
そのときぼくは「くそー、なんなんだこの会話は? そしてこれを聞かされているおれは、なんなんだ?」と、哲学的思考を巡らしていました。
真理はそこにある。
そして、ある駅に着こうかというときに、さらにこんな会話が聞こえてきました。
「ねえ、わたしと別れたら、さみしい~?」
「う~ん」
また同じやりとりです。
そして、電車が駅に着きました。
「そっかー、わたしと別れたらさみしいんだね」
「う~ん」
「分かった、じゃあ……別れてあ~げない」
ぼくは心の中で「マジかよ」つって、顔を上げました。
そこには、美男美女のカップルの姿が。
それはもうベタに、「人生、余裕ですけど」みたいなお二人さん。
そして、女の子のほうは、さっきのセリフとともに電車を駆けだしていきました。
残された男の子は、ニヤニヤなのかニコニコなのか、ともかく顔がほころんでいて、ぼくは顔をしかめていました。
そしてぼくは本を閉じ、そっと眠りにつきました……
……この話から、なにか教訓をえることができるとしたら、「いい男は返答が『う~ん』だけでも余裕」という事実かもしれません。
あらゆる出来事から教訓を得る男、それがぼくです。
ということで、今日はこのへんで。
ではでは。
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