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「エミリア、どうか笑っていて」 「おかあさま…」 記憶の中にあるお母様は、私を優しく撫でてくれた。お母様はすでに儚く、そうなってからもう十年が経とうとしている。 「汚らわしい、早くしなさい」 お母様がいなくなってすぐ、お父様は後妻を迎え入れた。曰く、私のような不気味な目をもつ者を外へは出せないからだそうだ。私の名はエミリア・レイノ、アベラール王国のレイノ侯爵家の、一応は令嬢。でも私はお母様が大好きだと、綺麗だと言ってくれた瞳を憎まれて令嬢としての扱いは受けていない。 「お母様…はやく、お母様のもとへ行きたいです…」 お母様がこの国ではない別の国の王女様だったらしく、その国との外交の関係上、私は殺されはしないし表向きは令嬢として最上級の扱いを受けていることになっている。でも蓋を開ければその血筋を目当てにしたアベラール王国第一王子の婚約者。身分も侯爵家とそれなりに地位はあるため、申し分なし。その肝心の王子様には嫌われているし、通わされている学校では私よりも家格が下の者にまで虐められる始末。 助けは求めていた、いつだって。 でも、誰も助けてはくれなかった。後妻としてやってきた義母は、私の目を見た瞬間に私をひっぱたいたくらい嫌われている。家の人間は誰も私に手は差し伸べてくれなかった。唯一、侍女のアニタだけが私のために食事を与えてくれたり、いろんなことを助けてくれた。それだけだ。そのアニタも辞めさせられてどこにいるのかわからない。 「はぁ、明日はたしか留学生が来られるのよね…。しばらく学校も落ち着いてくれるといいんだけど」 夜、義母に命じられた食器洗いをし、明日からの学校に憂鬱になる。お母様がこっそりくださった形見のペンダントを握りしめて、手早く済ませた。この家にあった結納時の品は全て、後妻が来てから火の車になった家計のために売り払われてしまった。 このことを、お母様の実家が知っているかどうかは知らない。だって、私が知るような術がないから。前に助けを求めようと手紙を書いたら、どこで漏れたのか、三日三晩食事抜きにされて真っ暗な蔵の中で閉じ込められて嬲られた。痛かったし、怖かった。そんな思いをするのは怖くて、お母様の血筋のお家には助けを求める方法がなかった。 「何事もないと、良いのだけれど…」 今日も目が気に食わぬ、顔が気に食わぬ、という理由で義母に叩かれ、部屋に引っ込んだ。誰もが、この瞳を嫌う。瞳の中に四つ葉模様があるのが気持ち悪いのだそうだ。お母様のおばあ様もこの瞳だったと聞いていたからそう珍しくはないと思っていたのが私だけと気付いたのは、すぐだ。
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