02

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可笑しな瞳、気持ちが悪い、そう蔑まれるようになったのは母を亡くしてからだった。私に優しかったアニタも一年経てばいなくなってしまったし、そうして残った使用人たちが私のことを気味が悪いと言っていたのを今でも覚えている。 「行ってまいります」 朝、見送りにすら誰も来ない家に向かって声をかけ、待機している馬車に乗り込んだ。よろしくお願いします、と馬車の運転を任せている侍従に言ってから出発する。そして学校に通う貴族の生徒が乗り降りする乗降所で降りれば、さっそくコソコソと話す声が聞こえた。もはや誤魔化すつもりもないのか、実家での扱いがどんなものなのか、レイノ侯爵家は見せつけているほどだ。侍従にすら馬車の戸を開けてはもらえないので、自分で乗り降りし、降りたとわかるや来た道を帰りだす馬車。 「あら、エミリアさん。ご挨拶もなしですの?」 「ご、ごきげんよう、アンジェリカ様」 「本当、みすぼらしいわよね」 玄関口に向かって歩き出していると、目の前に人が立ちはだかり、顔を上げれば苦手なご令嬢とその取り巻き令嬢がいた。ボスな令嬢はアンジェリカ公爵令嬢で、私よりも家格は上。なのに第一王子の婚約者の座を私に奪われたと思っているようで非常に突っかかってくる。 と、言うのは表向きで、実際に王子とアンジェリカ様は恋仲。それを引き裂こうとしていると思われているのが本当の理由。どっちにしろ彼女には嫌われているし、王子にもお前がただの侯爵令嬢なら即座に斬り捨てていると、殺す宣言をされているほどには嫌われている。 彼女の取り巻きには私よりも家格が低いものもいるが、みんなアンジェリカ様の恋を応援している人たちだから、私みたいなのが邪魔で仕方がないらしい。よそでやれ、と言いたいほどに巻き込まれただけの私だった。 「邪魔なのよ、あなた」 「あなたに王子殿下の隣は相応しくありません」 「気味が悪い…」 口々に嫌味やらなにやら言われるので、嫌になってしまう。学校は単位制で好きな時間に開講されている授業を受けることができる。だからわざわざ居たくない家を朝早くに出て、授業までの時間を潰しているというのに。 「急いでいるので、失礼します」 不敬であるとわかっていながら、その脇を通って足早にその場を離れた。そもそも私に突っかかってくる暇があるのなら王子といちゃつけばいいのに、なんて思うのは私だけだろうか。 「ちょっと、待ちなさいよ!!」 アンジェリカ様の声を無視して走った。授業になるまで持っていた本が読める学校の裏庭に隠れた。本だけは私を裏切らない。だって彼らは私に文字で語りかけてくるけれど、私を傷つけるような言葉は言わないから。 毎日嫌になる、なんて思いながら地面に直接腰を下ろして本を読み始める。時間まではまだ数時間あるとわかっているので、ゆっくりと読んだ。そして一時間ほど経った頃だろうか、元々、木陰で読んでいたから読みやすい明るさだったのに、さらに本にできる影が濃くなったのは。
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