04

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「まぁ、俺たちに任せて」 「エミリアは、何もしなくていいんです。いつも通りに過ごしてください」 「…?わかりました」 よくわからないが、何もしなくていいのなら、いつも通りに過ごしてもいいのならそうさせてもらおう。私が急にラウリ殿下やラウノ殿下と一緒にいたり、行動がいつもと違うことがあれば、即座に恐ろしいことになるのは目に見えている。 「ねぇ、エミリア。俺たちのことは兄と呼んでよ」 「エミリア、かしこまる必要はありません。俺たちは同じ血が流れているんです」 押しが強そう、というより強すぎるあまりすぐに拒否ができず、お兄様呼びすることが決まった。こんなこと知られたら私は今度こそ視線で死ぬかもしれない。 私は、人が苦手だ。人間というのは醜い生き物で、自分より下の人間を常に探している。その他大勢と少しでも違った人間を簡単に非難する。間違った正義を振りかざすのも、一人ではできなくても大勢が集まれば容易くできる。そんな人間に振り回されてきた私にとって、人間というのは汚い。 そして、そんな人間の一人であるという自分が、「その他大勢」になったときに私がされて苦しかったことをするかもしれない自分が、一番憎かった。だから、王子との婚約が決まった時、絶望しかなかった。私はまた、針の筵になるのか、と。 「エミリア、そろそろ授業だね。頑張って」 「頑張ってくださいね、エミリア」 「ありがとうございます。ラウノお兄様、ラウリお兄様」 兄呼びをしなければ、わかりやすく拗ねる二人の従兄王子を兄と呼んでお礼を言う。いつぶりだろうか、そうやって声をかけてもらえるのは。お母様とアニタがいなくなってから誰も私に声はかけてこない。褒められるどころかいつも怒られる。なんでって最初は思った。お母様のようにお父様も愛してくれると信じていた。 「いってらっしゃい、エミリア」 「また、会いましょうね。エミリア」 はらり、と涙が零れ落ちた。いつでも会えると言っていなくなってしまったお母様。お母様は私の心の中にいつでもいると言ってくださった。でも会えない、どんなに苦しいときも悲しいときも会えなかった。私が会いたいと願えば願うほど、お母様には会えなかった。心の中は、いつだって空っぽ。 「エ、エミリア!?」 「どうしたのですか、エミリア!?」 急に泣きだして困らせてしまっているとわかっていても、涙は止まらないし、止め方がわからない。悔しい、憎い、悲しい、辛い、苦しい、いろんな感情がぐちゃぐちゃに渦巻いている。 「または、こなかった…。あえ、あえなかった。おかあさまにあいたい…、もう、やだよ。にどとこないまたなんて…、いらない」
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