藤堂愛衣

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藤堂愛衣

『久し振りにお茶しない?』とリコからLINEが入った時は、洗面台の前で思わず僕はガッツポーズを作った。  高校を卒業して以来、離島から離れた僕はこの北関東の工場に就職して、今年で新卒二年目になる。  リコも同じく住み慣れた離島を後にし、僕と同じ北関東に越してきた。理由は此方に通う大学がある事と、タツヤが居るからだ。タツヤは僕の友人でもあるが、同時に恋敵(ライバル)でもある。  高校最後の夏にタツヤとリコと付き合いだして、僕は完全に彼女に振られてしまった。二年も前の出来事なので、僕も都会に出て来たんだし、いい加減リコの事は吹っ切れたと思っていたが、LINEを見た瞬間色々と期待してしまった。 『リコ、久し振り。いいよ、何時にする?』 『出来たら、今直ぐに会いたいな』 『今? 別にいいけど、どこに住んでるんだよ。今からだと終電無くなるんじゃないか?』 『私、S市の〇〇駅の近くに住んでる』 『あぁ、結構僕の家と近い場所に住んでるじゃん。車で直ぐ向かいにいける』 『それなら、近所のファミレスでもいい? タケルくん、ごめんね』  LINEで短い会話をすると、ジャケットを羽織って車に乗り込んだ。まさかリコがこんな近くに住んでるとは思わなかった。  僕のアパートがある最寄り駅から、三駅先程度の距離だ。高校の頃は自分から誘わない限り、僕にわざわざ会いたいなんて言ってくるような子じゃなかったけど、文面からは何だか切羽詰まったようなものを感じた。  ともかく、リコがタツヤと別れたなんて言う話は級友からも聞いていないので、他の人には言い辛い悩みがあるのかもしれない。  僕はLINEで指定された場所へと向かった。  全国チェーン店のファミレスで、こんな時間でも離島とは違い、こちらの方はけっこう繁盛している。  既にリコは奥の部屋で一人、僕を待っていた。 「ごめん、リコ、待たせた? あ、僕……コーヒーお願いします」  座る直前にウェイターに注文すると、自分で分かるくらい陽気な声でリコに話し掛けた。日に焼けた、ショートカットの中性的な子だったリコは、二年の間に随分と大人びて美人になっていた。  元々目鼻立ちがハッキリとした整っていて、クラスの中でも美少女だったが、都会の大学に通うと垢抜けるんだろうか、都会のお洒落な女子大生になっていた。  ただ少し気になったのは、リコがやつれた様子だった事だ。 「ごめんね、急に呼び出しちゃって。どうしても今日、話したかったんだ」 「いや、別に気にしなくていいよ。その代わりコーヒー、一杯奢ってくれる?」    ふざけたように言うと、リコは僅かに笑った。普段の彼女なら、明るく笑ってなにか冗談を返すのだか、今日は人の言葉に反応するのもやっと、と言うように思えた。  これは流石に本格的に参っているようなので、世間話もそこそこに本題を切り出した。 「あのさ、リコ。僕に話したい事があるんじゃない? なんて言えばいいのかな、さっきから様子が変だよ」 「うん……。やっぱりタケルくん、そう言うのわかっちゃうんだね」  カラン、とレモンティーの中に入っていた氷が溶ける音が響くと、リコは消え入りそうな声で独り言のように呟いた。  リコの言葉に、僕は嫌な予感がした。だいたいこう言う流れで呟かれると、その後に続く言葉が容易に想像できてしまう。 「タケルくん、霊感強いんだよね? お婆さん拝み屋さんしてるもんね」 「まぁ……たぶん。何かあったの?」  僕は言葉を濁した。  もしかしてタツヤと仲違いしたり、別れて傷心中に真っ先に顔が浮かんだのは僕だったり……とか想像したけど、全くの虚しい勘違いだった。  そして、僕は友達や会社の同僚に霊感があるとか、強いなんて言った事は一度も無い。当然そんな事言えば、大抵の人は反応に困り幽霊が見えるだなんて、おかしな奴と眉を顰めるだろう。 「実は……、先週の連休にね。タツヤとアイちゃんとユージで心霊スポットに行ったんだよ。それでちょっと……」 「あぁ、なるほど……幽霊見たとか? 心霊写真が撮れちゃったとかかな」  心霊スポットに行って、霊を見たんだけど憑いているかも知れないから霊視して欲しいだとか、心霊写真を撮ったとか、良くある相談の一つで殆どが気のせいや、他の科学的な要因がある。例え見えたとしても殆ど向こうはこっちを意識してない。  心霊写真なんて殆どがカメラに原因があるか、シミュラクラ現象と言う3つ穴が揃えば顔に見えたりするような、そう言う心理的なものだ。ばぁちゃんを頼ってくる人も殆どがこういう人達ばかりなので、取りあえず否定はせずにリコの話に耳を傾けた。 「ううん、そうじゃないんだよ。ねぇ、タケルくんさ……成竹さんの家って知ってる?」 「いや、僕は心霊スポットとか全然興味ないから知らない。そこって有名な所なの?」  申し訳無いけど、免許を取ったら取り敢えず心霊スポットへ肝試しに行く、なんて言う人達の気持ちがさっぱり分からない。  今でこそ、霊を見ないように自分の中でシャットアウト出来るようになったが、その方法をばぁちゃんに教えて貰うまでは、嫌になる程幽霊を見ていたので、興味もなければ有名な場所なんて知る筈も無く、全くピンと来ない。 「私も詳しくないけど、ユージとタツヤが言うには、有名な場所らしいの」
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