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②
リコの話はこうだ。その日リコ達四人は、北関東にある『成竹さんの家』と言われる有名な廃墟の、心霊スポットへユージの車で出向いていた。
『ねぇ、タツヤ……成竹さんの家って、もっと都会にあると思ってたんだけど、結構山の近くにあるんだね』
『そうか? 廃村なんてだいたいこんなもんじゃねぇのかな。何だよリコ〜、もう帰りたくなってきたのかよ。本当に怖がりだな』
正直に言うと、怖がりなリコはタツヤから誘いを受けた時、一度は断ったが直ぐに帰るし、アイもユージも一緒だと聞いて、最初で最後の肝試しも良いかも知れ無いと思ったそうだ。
最終的には、タツヤの「どうしても怖かったら車で待ってて良いから」と言う言葉に背中を押されて決心した。
だが、暗い道をヘッドライトで照らす度にもう帰りたい、と言う気持ちになっていた。もう既に弱音を吐くリコを助手席に座っていたタツヤが振り返った。
『だって、怖いよ……、普通は幽霊なんて絶対に見たくないじゃん』
『リコ、大丈夫だよ。アイは霊感強いから何かあったら私が祓ってあげる』
アイも高校からの友達で、リコとは正反対の大人しい文学女子という感じだが何故か二人は仲が良い。彼女は良い子だけど、所謂クラスに一人は居る「私、実は霊感強いんです」系の女の子だ。悪い子では無いが僕は正直苦手だ。
アイはユージの後部座席で、リコに御守りやら塩やらをパワーストーンのブレスレット等を見せてきたそうだ。
『アイちゃん、めちゃくちゃ本格的だねー、もしさ、幽霊が出たら教えてよ。そこに向かって祓ってくれたりしたら、リスナーめっちゃ盛り上がるから』
そう言って、ミラー越しに二人を見たのが、四人の足になっているユージだ。僕と同じように就職したが、動画サイトで爆発的に人気が出てしまい、脱サラして人気配信者になってしまった。
ちなみにその動画と言うのは、廃墟巡りが好きで、その時に偶然撮影した動画に霊が映りこんでいたとリスナーの間で盛り上がり、それがSNSで拡散され、一躍オカルト界隈で有名になったんだとか。
僕が霊視しても、いまいち霊が映っているかどうかは良くわからないので、眉唾ものだと思っている。
この日も動画サイトで配信する為に、ユージはカメラを回していたらしい。
そうこうしているうちに、某廃村入口へと到着した。廃村の奥に『成竹さんの家』があるなら、リコも迷わず車の中で待っていただろう。
廃村の入り口に差し掛かった時、車のヘッドライトが古い日本家屋の一軒家を照らした。外壁は所々苔むしていて、『成竹さんの家、呪われるぞ』と家の門に向かってスプレーで書かれていた。ご丁寧に矢印まで書いていてので、直ぐにそこが噂の場所だとわかったそうだ。
『本当だ、成竹さんの家って書いてるじゃん! 分かりやすくて助かるわ〜』
ユージがそう言って車を止めると、カメラを回し始めて、一番先に降りると、タツヤ、アイ、そして最後にリコが車から降りた。
リコは、動画に映るのは絶対に嫌だと断って最後尾を歩く事にした。その隣にタツヤが並んで歩いた。アイは、今回のゲスト枠で特別出演の霊感少女という事らしい。
リコとタツヤは、とりあえず姿は見られたく無かったので、声だけの出演になった。
今から40年程前に廃村になったそうだが、成竹さんの家とされる一軒家だけは、そこまで荒れている様子は無かった。
「私ね、霊感とか全く無いし感じないし、信じてない。そう言うの、怖いから全く興味ないんだけど、あの成竹さんの家は凄く気持ち悪く感じた。絶対ここ入ったらだめだって」
リコは、レモンティーに口を付けないまま、項垂れて話を続ける。傍目から見ても、相当怖い思いをしたのだろうと言うのが伝わってきた。
ユージと、アイを先頭に成竹さんの家へと入っていった。中は荒れていたが誰かが肝試しにきて、荒らしたと言うより生々しい生活感を感じたらしい。
成竹さんの家は、家族全員がある日突然、食事の途中で、家財道具を全て置いて夜逃げをしたような雰囲気だったという。
『うぁ〜〜気持ち悪ィ、なんかこの家……他の村に移り住んだって感じしねぇな……遺影とか、置きっぱなしじゃん』
『やだ、ちょっと、怖いからやめて!』
タツヤは身震いして、懐中電灯を鴨居に飾られてある先祖代々の遺影を照らした。随分と古いもので、一番端はモノクロ写真で戦前に撮られたようだった。あまりにも、怖過ぎてリコは目を逸らした。
『わー、これが噂の御札の間ですかね。これ、普通の量じゃないですよ。一体、成竹さんの家で何があったのか……。これだけあるってことは、家族に次々と不幸が襲いかかったとか……そう言うの、考えちゃいますよねぇ。ね、あいちーどう? 何か感じる?』
ユージがリスナーを意識して、心霊廃墟の実況を始めた。成竹さんの家には通称、御札の部屋という所があるらしい。
狭い部屋一面に、色んな神社から貰ってきたものや、おそらく家主が自作で作ったと思われるような御札が、畳から天井まで貼り付けられている。
もしかすると肝試しにきた連中が、そういった悪戯をしたのかもしれないけど、人ひとり入れる位に開かれた障子の向こう側に広がる異様な世界は、一生忘れられない、とリコは言った。
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