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 仕事が終わって、僕はリコを駅前で拾ってユージの家へと車を走らせた。一年前に都心に引っ越ししたらしい。  僕はそういった界隈に疎いのだが、リコいわくユージは、毎日動画を何かしら投稿していて、そこそこ人気があるYouTuberなので、都心に住める位の稼ぎがあると言う。  羨ましい限りだ……まぁ、僕なんてなろうものなら2日でネタが無くなってしまいそうだけど。   「リコもユージの動画見てるの? 全然心霊系駄目かと思ったけどそうでもないんだ?」 「私、怖いの苦手なんだけど……ユージの動画は面白いのもあるから見れるの」 「そっか、あのさ……霊感が強い人ってどう思う? やっぱり気味悪いものかな?」  僕はそれとなく聞いてみた。  いや、何を聞いているんだ。完全に僕のことどう思ってるんだ、みたいな聞き方をしてしまった……。こんなんじゃ下心見え見えに思われてしまいそうだ。恥ずかしくて顔が熱くなってきた。  リコは案の定きょとんとして自分を見ていた。そして次の瞬間おかしそうに笑った。 「タケルくん、高校の時も同じ質問したよ。変わってないね。私は怖いの苦手だし、そう言う世界の事って分からないけど……その人の力が本物なら一つの才能だと思うけどな」 「そ、そうか高校の時も質問してたっけ。才能ね、いいね!」  完全に墓穴を掘ってしまった。どうしてこうも僕は、女性と話すのが致命的に下手くそなんだろうか。職場が男だらけなんて言い訳が出来ないほどだ。  そんな事を思っていると、ユージの住んでいるマンションまで到着した。コインパーキングに車を止めると、僕たちは共有エントランスから、インターフォンを鳴らして、ユージを呼び出した。 ✤✤✤  ユージの部屋は都心で1LDK、結構な家賃じゃないだろうか。部屋は配信場所として使うのでそれなりに小綺麗にしていた。  一年ぶりに会うユージは、目の下にクマが出来ていて、随分と疲れた様子だった。リコと、ひさしぶりに会った時よりも、どことなく全体的に黒いモヤがかかったような、どんよりとした印象を受けるのは気のせいではないだろう、隣のリコも、心配そうにユージを見ていた。 「二人ともお茶で良いか?」 「ありがとう、ユージ眠れてないのか?」 「あぁ、まぁ……その事も今日話すよ」  洋間に通された僕とリコは顔を見合わせ、お茶を飲んだ。配信用の機材や、カメラ、僕は知識がまるでないので良くわからないが、恐らく仕事用のものがいくつか置いてあった。  ユージはノートパソコンを取り出すと起動させる。 「成竹さんの家に行った時、俺は配信用にカメラを回してたんだ。それはリコから聞いたよな? アイがああなって、流石にこれを俺のチャンネルに載せるのはまずいかなと思って……お蔵入りしようかと思ってたんだ。  成竹さんの家から帰ってから、一度も撮影したやつを見た事無かったんだけど……、やっぱり俺も配信者の端くれだからさ。確認したくなったわけ」 「何か……映ってたの?」  もう既に、リコの声は震えている。自分がそこに居たのだから恐怖は誰よりも強いだろう。僕も正直、嫌な予感がするがここまで来て見ない訳にはいかないので腹を括る。  動画ファイルが再生されると、車内でリコとアイが話している様子から始まった。次にアイが心霊スポットに持ってきた塩、パワーストーン、そういったものが映し出される。  車のヘッドライトに照らされた一軒家には、『成竹さんの家、呪われるぞ』と言うスプレーで書かれた文字が落書きされていた。その文字を見た瞬間に盛り上がる四人。  古い日本家屋の一軒家は、昭和の時代に建てられたものだろうか。その割には綺麗な廃屋で玄関の扉をタツヤが少し強引に開ける。懐中電灯で照らす足元は、埃まみれで人気のスポットだと言う割にはここ最近、人が訪れている様子は無かった。 「ちょっと止めてくれる?」 「えっ、何だよもう霊が見えるのか?」  僕が制すると、ユージは驚いて手を止めた。玄関の入口で映像が停止して、僕は頭を振ると説明した。 「説明が難しいんだけど……、今から僕はこの映像を通して、四人が体験した事を体験する。ええっと……なんて言ったら良いのかな、映像を通してこの家を霊視する。VRみたいな感じだよ」  二人とも当然ながら、良くわからないと言うような顔付きだ。僕の霊視は映像や写真の中に入って、過去の出来事を追体験する。  追体験するだけでなく、その中で自由に動けて、例えば皆が見えていなかった物が見えたり、その場所に限り自由に移動できたり、物に触れたりする事が可能になる。 「えっと、僕が良いよって言ったら、動画を再生してくれるかな? 僕が止めてっていったら止めて欲しいんだ。今から僕のチューニングを合わせるから」   多分、半分も理解できていないだろうユージが頷き、リコは心配そうに見ている。僕は深呼吸すると両手で、こめかみを抑えた。  そして、額に意識を集中させた。徐々に研ぎ澄まされた感覚が体を駆け巡った。 「良いよ」
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