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 その瞬間、僕は成竹さんの家の玄関先に立っていた。前方にはタツヤの腕にしがみつくリコの背中が見える。  その前にはユージの、そしてタツヤとリコの間にアイの後頭部が見えた。懐中電灯を周囲に当てて中の様子を伺っている。雑談しながら部屋へと入ると彼らの後を追って、僕も成竹さんの家へと上がりこんだ。   廊下を真っ直ぐに歩くが、誇りだらけの廊下には人の気配を感じなかった。廊下の突き当りの部屋まで来ると、四人はここがそうじゃないかと口々に言いながら入っていった。  まるで映像の解明度を上げるように、僕は少し部屋を明るくする。薄暗い部屋はそれぞれ襖が開け放たれ、廃墟らしく家具が乱雑になって置かれていたが、古い家なのに、まるで今までそこに人が生活していたような、妙な生々しさがある。  僕はまず、そこで一旦頭の中で皆を停止させた。視線を彷徨わせると壁には西暦1975年の7月のカレンダーが掛けられていた。  少なくとも、この家の住人は45年前には居なくなっている。成竹さんの家があるこの北関東の廃村は、高度成長期で徐々に過疎になっていき、村人達が去っていったと言うのは聞いたことはある。そういった集落はこのあたりには幾つもあるらしい。  この家の住人もそうなのだろうか。 「それじゃ、始めるか」  僕は、更に意識を集中させてこの家にいる霊体を探した。あの時、ぼんやりとどの方向に霊がいたのかを探った。  霊がいる部屋を霊視すると、僕にはぼんやりと光が見える。僕の経験から言って青く光る所にいる霊は、攻撃的じゃなくただそこに存在してるだけ、通り過ぎていくだけの者だ。赤く光る所にいる霊は危険なもの、危害を与えるものと言う認識だ。  四人が入った部屋の手前から三番目に、青い光を感じて僕はその部屋を覗いた。ここは誰か住人の部屋だったのだろうか。部屋の隅には僕と同じくらいの年代の男性が膝を抱えていた。彼は服装から見ても現代に近く、この家の住人ではないだろう。  顔は膝に埋められていて怯えたように前後に体を揺らしている。僕は近くまで行くと、声をかけた。 「すみません、この家で見たことを教えて頂きたいのですが」 『俺は悪くない、俺は悪くない。だから辞めようっていったのに。何も見てない、俺は悪くない俺は悪くない』  殆ど僕の声は彼に届いてないようだ。だが、何も見てない、と言う言葉を信じる事にする。この手の霊は大人しいが、根掘り葉掘り聞くと逆上して憑かれる恐れがある。  それに顔をあげた瞬間彼の目は空洞になっていて、死ぬ直前に視力を失ったかも知れないと思った。僕は諦めてその部屋を後にする。おそらく彼は何かあっても、見えなかった筈だ。  手前から二番目の部屋からは、幼い子供たちが走り回っている。服装からして、戦時中か戦後すぐ辺りの写真に載ってそうな子供達だ。女の子はおかっぱ頭で赤いスカート、そして追いかけられている男の子は着物を着ている。  彼等は家具の上を登ったり畳を走り回ったりと楽しそうに鬼ごっこをしている。恐らく、四人もこのドタドタと言う音を聞いた筈だが、アイの豹変に全てが吹き飛んでしまったのかもしれない。 「ねぇ、ちょっと話を聞かせてくれるかな?」 『いいよ!』 『おにいちゃんだれ!』  子供達の目は黒目が無く、真っ白だ。青白い笑顔だけは無邪気だ。だが、子供の霊は無邪気な分、残酷な事も平気で出来るので十分に気を付けなければいけない。 「僕は(タケル)って言うんだ。ちょっとこの間来た四人の事を調べているんだよ。君たちが遊んでいる時、何か見たかな?」 『ふーん。今まで沢山わたしたちのお家に遊びにきたけど、みーんな死んじゃった! あのおふだの部屋に入ったらだめなの』 『オハラミ様は怖いんだよ、怒らせたらだめなの、いがいは、僕たちみたいに死んじゃう!』 『おにいちゃんも死んじゃうよ〜〜!』  キャハハと子供達は笑うと、そのまま闇へと消えてしまう。オハラミ様の他にウズメという新しい名前が出てきた。  漫画や小説の主人公のように知識があればいいが、残念ながら全く思い当たらない。新興宗教かそれとも土着の信仰か何かか……それとも、何かの隠語なのだろうか。僕は、深呼吸するとその部屋を出て奥の部屋へと向かった。  ついに最後の部屋へと向かう。扉からは赤い光が放たれていた。  その部屋には、四人が身を寄せあい固まって停止していた。ここが一番人の気配を感じる。おそらく成竹さんの家のご先祖の遺影が飾られているからだろう。  当然、ご先祖様は無断で人の家に上がりこんでふざけているの彼等を、どれとこれも険しい顔付きをで皆を見ている。  各故人の口だけが動き、罵倒の言葉を浴びせ掛けているが、それぞれの声が混じって全て聞き取る事は出来ない。額縁から出られない彼等は赤い光に包まれている。 「参ったな……あんなに怒ってたら話を聞いて貰えないや。やっぱりこれはご先祖様に祟られたのかな」  溜息をついて、停止していた四人を動かす。 『うぁ〜〜気持ち悪ィ、なんかこの家……他の村に移り住んだって感じしねぇな……遺影とか、置きっぱなしじゃん』 『やだ、ちょっと、怖いからやめて!』  リコと、タツヤの二人は気味悪そうに遺影を見ていた。前方にはカメラを構えるユージ、その前には、ぼんやりと棒立ちになっているアイの後頭部が見えた。二人が見ている方向には禍々しい赤黒い光が渦巻いていて、僕の背に冷たい汗が伝った。 『わー、これが噂の御札の間ですかね。これ、普通の量じゃないですよ。一体、成竹さんの家で何があったのか……。これだけあるってことは、家族に次々と不幸が襲いかかったとか……そう言うの、考えちゃいますよねぇ。ね、あいちーどう? 何か感じる?』
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