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それに人生を貰えるというなら、彼女も自分のものに出来るという事ではないだろうか。甘い妄想の末、商品を購入した。 しかし、今度は届くのに時間がかかった。途中何度と不信にかられたが、一週間後には例の段ボールが届いた。ボクの人生とマジックで書かれた段ボールを開けてみると、同様に底の方には指示カードがあり、分厚いビニールに包まれた服が眠っていた。広げてみるとそれは真っ白なスーツだった。 指示カード この度はボクの人生をお買いあげ下さりありがとうございます。今回の商品は一生ものの保証をつけております。あなたがお気に召すまでボクの人生を謳歌して下さい。また、◯◯駅構内のロッカーに荷物を置いておきました。新たな人生に役立つ事間違いありません。明日の夜までに取りに行って下さい。ロッカーの鍵はジャケットの胸ポケットに入っています。 それではいいボクの人生を。 追伸 その衣装はあなたへのプレゼントです。次のデートで着てみたらいかがでしょうか。 山田は試しにスーツのジャケットを羽織ってみた。それから不敵に笑って、その場でタップを踏んだ。まるで気分は芸能人だ。だが今回は、ロッカーにもう一つ荷物があるらしい。胸ポケットを指で探ると、本当に鍵があった。 まさかロッカーに死体でも入ってるのではないだろうか。そんな恐怖心が頭をよぎると、山田はじっくりと番号の書かれた鍵を眺めていた。 次の日、とうとうバイトを、一言の断りもなく休んで指定されたロッカーのある駅へ取りに行った。22時を過ぎていたので、駅構内には人があまりいなかった。 「あれか」 道の端っこにロッカーが並んでいるのを見つける。指定された番号を探すと、一番大きなロッカーの鍵だった。ゆっくりと鍵を差し込み、カチャリと音を立ててひねる。急に緊張感と寒気が体内を走り回るが、勇気をだして軋む扉を開く。暗い中を覗いてみると、そこにはシルバーのトランクケースがあった。トランクを引っ張り出そうとした時、指示カードがついでに舞い落ちた。 指示カード お疲れ様です。ボクの人生を楽しんでもらう為に、あなたにささやかなプレゼントです。このプレゼントは家に帰ってから開けて下さい。あなたの人生が更に潤うことでしょう。 指示カードの通り、それを家に持ち帰ってから、中を慎重に開けてみた。中には思いがけないものが詰まっていた。 「な、何だよ。嘘だろ?」 大金、札束だった。それもピン札。恐らく一生かかっても目にすることのない光景が、山田の目の前に広がっている。思わず両手が震える。 「これ、大丈夫なのか?犯罪に巻き込まれてるんじゃないのか?」 ここまできたら、警察に連絡をした方がいい。山田はスマホを手にとるものの、蓋の内側についたポケットに、また指示カードがあるのに気づいて取った。 指示カード あなたは今このお金が怪しいものと思った事でしょう。しかし安心して下さい。このお金は綺麗なお金です。保証致します。このお金は既にあなたのもので、あなたは自由に使って構いません。ボクの人生は、あなたのもの。
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