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 だが文字を打つ前に気づいた。また新しい商品が掲載されている事に。その商品は「ボクのさいご」だった。その商品は10万円で売られていた。すっかり金銭感覚の狂った山田にとってはそれも安く感じた。10万円で、またおいしい思いが出来るのなら安いものだ。山田はそう思ってその商品の詳細も読まずに購入した。不安感は一気に飛んでいき、これでもう大丈夫だと、根拠もなくため息をついた。    「ボクのさいご」は数日ぽっちで届いた。段ボールを開いてみると、中には指示カードが入っていた。山田はいやらしい笑みを浮かべて、手慣れた所作でカードを取り出して読んだ。 指示カード この度は「ボクのさいご」を購入して頂きありがとうございます。この商品は大変貴重なものとなっております。取り扱いが困難な為、指定された場所、時刻に直接商品をお受け取り下さい。住所は下記に記します。それでは最後までどうぞお楽しみ下さい。  指示カードの下には文面通り住所と時間が記されてあった。普段よりも怪しさが溢れる内容だったが、もう後戻りは出来ない。何せもう10万円を払ってしまったのだ。商品は返品不可だ。これはもう行くしかない。山田は腹を決めて車を走らせた。  カーナビに沿って車を走らせる。着いた場所は使われていない廃工場だった。もうすっかり真夜中で、人気の感じさせない建物は不気味に映っている。 「本当にここなのか?」 何度も住所を確認してみる。しかし確かにこの場所で間違いなかった。山田は降りるのが怖かった。ここまで来て、土壇場で襲われる可能性だって考えられる。十数分も考え込み、山田は車から降りた。恐る恐る、廃墟へと近づいてみる。今なら引き返せるぞ、心に訴えかけるが足は言うことを聞かずに前へ進む。もう山田の人生に戻る事は出来ないと強く思ったからだ。だから足は鉛のように重くても、先にある幸福を考えて前へと踏み出した。  廃墟の中へと進んでいくが、人の気配は無いままだった。 「おい!」 試しに声をかけてみるが、辺りはしんと静まり返っている。建物の半ばまで進んでみると、壊れた屋根から差し込む薄明かりの下に、何枚か紙切れが落ちている。山田は傍に行ってしゃがんで、紙切れを拾った。それは絵だった。  山田が叫びそうになったのは、その絵の内容がとても残酷なものだったからだ。それは男の生涯を描いていたが、言葉では形容し難い。最初は平凡な幸福に満ちた絵。だが段々と男の表情は崩れていき、想像を絶する恐怖に歪んだ顔となっており、最後の一枚は人とは思えぬ顔の格好をしていた。顔面が溶けているとでも言おうか。とにかく、山田はそれを見た途端動悸が止まらなくなり、今すぐここから逃げ出そうと本能的に思った。振り返ると――彼女がいた。 「健ちゃん」
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