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こんなおふざけを本気で信じるほど馬鹿ではない。山田は静かに画面を閉じようとした。だが一寸止まって、購入ボタンをクリックした。ほんの数ミリの好奇心。もしくはこの出品者に共感を得たからかもしれない。この出品者もおそらく自分と同じく、退屈を持て余している人間なのだろう。山田は密かな対人のお遊びのつもりだった。内気で人見知りの自分には、普通のツールを使ってコミュニケーションを築けなかった。その匂いを、この商品を出品した顔も見知らぬ人物に投影したのだった。 「バカげてるな」  ふっとほくそ笑んだが、清しい気持ちだった。これで騙されたとしても悪い気はしない。ふざけた事をしたという満足感で山田はその日寝るまでの間、気分が良かった。頭の中ではふざけた商品の事で頭がいっぱいだったし、他人の明日を生きるなら。そんな妄想まで楽しんだ。 それから翌日、翌々日と同じを過ごした。しかしその次の日だった。その日は休日で、朝からインターフォンが鳴った。扉を開けると宅配業者が小包を持って立っていた。例のアレだと、山田はピンときた。手続きを済ませて受け取って、部屋の中心に置きながら小包としばらく睨めっこをした。 「って、本当に届くのかよ」 じっくりと向き合った末、とうとう小包の包装を破いた。そこにはこの前見た写真の通り、箱に「僕の明日」と書かれていた。小包を持って揺らし、中身を確かめてみるものの何の音もしない。ただの空気が入っているのだろうか。山田は少し落胆しながら箱を開けた。  箱の底に、黒い封筒が一枚あった。手にとって開けてみると、中には「指示カード」とタイピングされた紙が入っていた。 指示カード この度は僕の明日をご購入、誠にありがとうございます。それでは早速商品の説明をさせて頂きます。文字通り、貴方にはボクが過ごすはずだった明日を過ごして貰います。 5月20日 午後12時にツタガヤ公園の噴水の前に来て下さい。もしも来れなかった場合、商品の方は返品とさせて頂きます。それでは、楽しい明日を。 追伸、ボクの一日を過ごす間、貴方の名前は須藤健一です。 「須藤健一……」 確か公開された出品者の情報にはその名前が記載されてあった。その日のその時間はバイトが入ってあった。掛け持ちのもう一個の方のコンビニだ。行くべきか行かないべきか、山田は迷った。しかし、まだ何か驚かされるネタがあるかもしれない。その事が頭から抜けないまま一週間を過ごした。結局当日は他のバイトと代わって貰う事にした。
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