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パーカーとスウェットのまま、午後12時前に指定された公園へと向かう。平日の昼は人気も少なく、母と小さな子や、お爺さんが散歩をしているだけだった。山田はもう一度指示カードを読む。記載された時刻や場所は合っているはずだ。そして午後12時きっかりになり、山田は周囲を見渡した。
「やっぱりただのイタズラか」
損をした。山田は急に悔しさがこみ上げてきた。せめて出品者にクレームを書かなくては気が済まない。スマホを取り出しアプリを開き、文字を入力し始めた。その時だった。
「健ちゃん?」
一人の女がこちらを伺うように話しかけてきた。その人は膝上までのワンピースを着て、ばっちりと化粧をした可愛らしい女性だった。年齢は20代前半か後半だろう。山田には女の年齢なんて分からなかった。肩までの黒髪が透き通って綺麗だ。
「須藤健一でしょう、あなた」
大きく丸い目で顔を覗き込まれると、山田は一瞬にしてどきっと心を揺さぶられ、つい瞳を逸らした。正直目の前の女性は山田のタイプだった。それに他は痩せているのに胸だけが大きく膨らんでいるのも、山田の好みだった。上半身を少しだけのけぞって、顔をぼんやりと熱くした。
「やっぱり、健ちゃんだ」
「い、いや」
というより人違いだ……と言おうとして、山田は聞き覚えのあるその名に、はっと思い出した。須藤健一。例の指示カードに書いてあった名だ。
「えっと、あなたは?」
山田は慎重に問いかけた。まさかどこかに仕掛け人がいるのではないかと、視線を公園の隅々に走らせた。どこかに怪しい人物がいないだろうかと。出品者のおふざけもここまで来たらあっぱれだ。
「あはは。酷いな。私の事忘れたの?前澤花だけど……」
前澤花と名乗る女性はいじけたように言った。
「前澤花、さん?」
「もう、どうしたの!今日の健ちゃん何か変」
唇を尖らせながら、山田の腕にしがみついた。それだけで体中の血が沸騰するようだった。
「変って言われても」
「私達付き合ってるじゃない。健ちゃん」
「え?俺達が?」
「うん。健ちゃんっていつも忘れん坊だけど、そんな事まで忘れちゃうんだね。ショックだなあ。ひょっとして浮気してる?」
「い、いや。してないよ。してない」
「そっか。ならいいんだけど。ねえ今暇?お茶でもしに行かない?」
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