清純には慣れておりません

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咲子は圭子がお土産のお饅頭を準備して事務所を出て行くのを見送ると、少しだけ母の言葉を思い出した。 「七条家の女性は、大切な人に会う時や大事な会合の時には必ず着物を着るのよ。 貴方や若しくは貴社の事を大切に考えていますっていうアピールにもなるから」 そんな事を思い出した咲子は、何だか居ても立ってもいられなくなった。 今日は、この団体にとっても咲子にとっても、とてもとても大切な日だ。 咲子は時計を見た。 EOCの方が見えるまで、まだ40分ある… こんな時のために奥の控室に着物のセットは準備して置いてある。 咲子の頭はもう着物の事でいっぱいになっていた。 こういう場にふさわしいのは訪問着それとも小紋の方? 確か、母が訪問着の方の帯と帯紐を新調してくれていたはず。 咲子はすぐに訪問着の方を手にした。 それに、小さい時から着付けのノウハウは学んできた。 正直、着付けは得意でも好きでもないが、でも、一人で簡単に着れるはず。 そんな咲子の頭の中には、着物を着た自分がEOCの人を笑顔で迎える場面が浮かんでいた。 …うん、やっぱり、着物じゃなくちゃ。
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