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まずは、中途半端にアップにされた髪型だ。
俺が急に驚かせてしまったせいか、あれは確実に途中で終わってる。
だって髪飾りもまだついたての下に置いたままだから。
それに、着物の状態もどう見てもおかしい。
せっかくの薄紫の素敵な着物なのに、帯があさってを向いている。
いや、もしかしたら、新しい帯の巻き方なのかもしれない。
でも、俺には蝶々結びの出来損ないにしか見えないけれど。
それなのに咲子様は何もなかったように穏やかな笑みを浮かべて、俺にお茶を出してくれる。
そのアンバランスな立ち振る舞いに、映司は何だか心がそわそわした。
このよく分からない感情に、自分自身が戸惑っている。
そして、咲子様の額には汗の玉が見えた。
何をそんなに焦っていたのか、鼻の頭にも汗が浮かんでいる。
「自己紹介をさせてください。
私は七条咲子と申します。
この」
「ちょっと待って…」
映司は咲子様の自己紹介を途中で遮った。
そして、さっきのついたての中から咲子様の髪飾りを持ってくる。
「これ、忘れてますよ」
映司はそう言うと、咲子様の髪にその髪飾りを上手に飾った。
そして、二歩ほど引いて咲子様を見て、グッドと親指を立てる。
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