清純には慣れておりません

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そう言うと、映司はまた咲子の返事は聞かずに、咲子の体の向きを変えた。 「この着物の帯が素晴らしい物なのはちゃんと分かってるよ。 そして、もちろん咲子様もね」 その言葉を言い終るのと同時に、帯の締め直しも終わったらしい。 映司はついたての奥に隠していた立ち鏡を、咲子の目の前に置いた。 「どう? こんなにも着物が似合うお姫様を僕は初めて見たよ」 咲子は自分の顔がずっと真っ赤になっている事は分かっていた。 こんな風にスマートに、私の失態を最高の状態に変えてくれる映司という男性は、もしや魔法使い? 鏡に映る自分は、映司の手によって今までの自分とは違う自分になっている。 何の感情か分からない。 咲子は嬉しいやら恥ずかしいやらで涙が溢れてきた。 ……誰か、この涙の意味を教えてください。
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