第三章 ソー視点 突然の来客が運んできた・・・

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そんな厄介で恐ろしいモンスターが、今目の前でぐったりと横たわっている。 人面蝶の顔は、まるで悲鳴を上げている様なおぞましい表情。巨大な翅には、幾つもの切り傷があり、それが戦闘の激しさを物語っていた。 一体何処からこんな巨大なモンスターの亡骸を抱えて来たのか、俺はギルド傍にある裏口から外に出て地面を確認した。 すると、そのモンスターを引き摺った跡は、視界がぼやける程の遥か遠くまでつづいていた。 此処から人面蝶が出現していた場所までの距離は、馬車を使わないと半日はかかってしまう。 人面蝶を討伐した方法も知りたかったけど、何人ものハンターが戦いを挑んでも倒せなかった人面蝶を、たった一人で倒し、此処まで抱えて来た男性も、色々と分からない。 俺はこのメイル国で生まれ育って十七年だけど、こんな顔のハンターも住民も、今まで見た事がない。 結構華奢な体なのに、大きなモンスターの亡骸をいとも容易く持って来たこの男。 人面蝶をギルドの人に預けると、息切れもせずに食堂で料理を注文していた。 俺達兄妹も、ギルドの関係者も、ただ唖然とするしかできなかった。 俺達がしばらく立ち尽くしていると、騒ぎを聞きつけたのか、城の兵士達が数名、ギルドに来た。 俺達やギルドの関係者が、兵士達に今まで経緯をどうにか話したけど、やっぱりというか、誰一人として信じてはくれなかった。 人面蝶を討伐した張本人である男性も、そっけない態度で兵士に話すから、ますますこの場はパニックになる。 今は人面蝶を討伐できた喜びよりも、何故討伐できたかで揉める状況。 こんな状況でも、平然と料理を食べる男。一体何から問い詰めらばいいのか分からない。 混乱するギルドの空気を破ったのは、妹のルドだった。しかしその質問は、かなり素っ頓狂だ。 「・・・あの・・・  ・・・此処のギルドのご飯、美味しいでしょ?!」 「・・・あぁ・・・まぁ・・・」 この質問に混乱したのは俺達だけではない、質問をかけられた男も、目をキョトンとさせていた。 その顔を見た俺は、何だか心が落ち着いた気がして、妹に続けて俺も質問をしてみた。 「此処ってな、料理も旨いけど、デザートも美味いんだ  奢ってやるから、食べてみるか?」 「いや・・・俺・・・甘いのは苦手なんだ」 「へぇー珍しいな」 案外俺達の質問にはしっかり返してくれる。兵士達の尋問には一切関心を示さない様な雰囲気だけど。 それから色々と雑談を交えながら話していると、男の正体が、『普通の旅人』である事が分かった。 またギルド内が混乱して、俺は咄嗟にこんな質問をする。 「もっ・・・  モンスターを討伐した経験は・・・?」 「此処に来る道中にも何匹か狩ってた  もう覚えてないけど」 この国の法律上、一般人がモンスターを狩る事は禁じられている。怪我をした際に、保証できないからだ。 でも男の体は全くの無傷だし、これで国民の皆が人面蝶に怯える生活とおさらばできた。 この功績と成果を考えれば、きっと許してもらえるだろう。普通は罰金刑だけど。 けれど、男が何処から来て、何の目的があって旅をしているのかは、教えてはくれなかった。 でも、話を聞く限り、悪い人ではなさそう。ハンターである俺や妹にとっては、先を越されて複雑な心境ではあるけど。 どうせなら討伐に同行したかった。どんな方法で人面蝶を倒したのか、どんな戦い方をするのか、すごく気になる。 兵士の皆はだいぶ疲れ果てた顔をしていたけど、俺達は三人で盛り上がっていた。
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