パンツに名前を書くのはやめなさい

1/1
140人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

パンツに名前を書くのはやめなさい

「なんでそんな物にまで名前を書いてるの? 」 琢磨は不思議そうに聞いた。 随分と長い付き合いになるが、たまに理解が出来ない行動をするのが、彼らしいと思いながら。 「だって、小林って書くの、楽しいんだもん」 ニコニコと嬉しそうに答えたのは、 一昨日に式を挙げ、書類も出して、正式に琢磨の配偶者となった祥吾である。 夫夫で同姓を選んだから、瑞木から小林になったのが嬉しいらしい。 かわいいなと思いながらも言わずにいられない。 「俺のにも書いてるよね? それじゃあどっちが祥吾のか分かんないから意味ないだろ」 「琢磨のはグレーで、僕のはブルーグレーだから区別つくの。琢磨、知らなかった? 」 祥吾が不思議そうにしたが、パンツの色なんて気にしたことがなかったから、琢磨は思わず自分のジーンズの中を覗き込んだ。 祥吾も覗いてくる。 「あ、僕の履いてる」 どうやらうっかり者は琢磨の方だったらしい。 「とにかく、パンツに名前を書くのはやめなさい。それか、どうせ書くのなら名前まで書いといてくれ」 琢磨は、気まずいのを誤魔化すように早口でそう言って、寝室へと逃げた。 祥吾の引き出しの中には、整然と並んだブルーグレーのボクサーパンツ。 パンツの中身にしか興味のなかった自分を、 ちょっとだけ反省した琢磨であった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!