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パンツに名前を書くのはやめなさい
「なんでそんな物にまで名前を書いてるの? 」
琢磨は不思議そうに聞いた。
随分と長い付き合いになるが、たまに理解が出来ない行動をするのが、彼らしいと思いながら。
「だって、小林って書くの、楽しいんだもん」
ニコニコと嬉しそうに答えたのは、
一昨日に式を挙げ、書類も出して、正式に琢磨の配偶者となった祥吾である。
夫夫で同姓を選んだから、瑞木から小林になったのが嬉しいらしい。
かわいいなと思いながらも言わずにいられない。
「俺のにも書いてるよね? それじゃあどっちが祥吾のか分かんないから意味ないだろ」
「琢磨のはグレーで、僕のはブルーグレーだから区別つくの。琢磨、知らなかった? 」
祥吾が不思議そうにしたが、パンツの色なんて気にしたことがなかったから、琢磨は思わず自分のジーンズの中を覗き込んだ。
祥吾も覗いてくる。
「あ、僕の履いてる」
どうやらうっかり者は琢磨の方だったらしい。
「とにかく、パンツに名前を書くのはやめなさい。それか、どうせ書くのなら名前まで書いといてくれ」
琢磨は、気まずいのを誤魔化すように早口でそう言って、寝室へと逃げた。
祥吾の引き出しの中には、整然と並んだブルーグレーのボクサーパンツ。
パンツの中身にしか興味のなかった自分を、
ちょっとだけ反省した琢磨であった。
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