決着

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 ……とまぁ、ざっとそんなところだ。それが『最強の漁師』とオレ達が認める『リサ』の話さね。  はは、凄いだろ? 何しろ200トンとか、シロナガスクジラとか、そんなレベルじゃぁねぇ。伝説級の悪魔を仕留めたんだからな……。間違いなくNo1の称号はリサの物さ。アイツを超える漁師なんざ、この先にだって永遠に現れまいよ。  何? それで結局、リサってなぁ何者だったのか……ってか。  さぁな、オレも詳しくは知らねえ。ただ、リサの先祖は母国で山奥に棲む暴竜を弓で射殺したとか言う伝説の男なんだとよ。だから、リサも何かしらそういう力を受け継いでいたのかもな……。  え? その後どうなったかって?  いや……仲間の船にも頼んで暫く海を探したが……ついにリサは見つからなかった。  多分、そのままレヴィアタンと一緒に海底深くに消えちまったんだろうな。  これは想像だが……アイツは最初から生きて帰るつもりが無かったんだろう。だから気前よく『前払い』で報酬を置いて行ったんだ。……自分にはもう金は必要ないという覚悟があったからだと思う。  ……刺し違え? ああ、そういう言い方も出来るけどよ。でも、少し違うと思ってる。レヴィアタンの腹ン中には、リサが敬愛していたというキャプテン・シルバーがいるんだ。……まぁ、とっくに溶けてヤツの養分になってるだろうけどよ。  けど、リサは『そこ』に今でもシルバーの魂があると考えていたんじゃぁねぇかって思うんだ。だから、仇を討ったら『そこ』へ行きたかったんじゃねぇか……ってね。  だからかな。リサがヤツの口に落ちる時……。遠かったからハッキリとは見えなかったが、その顔は満足そうに笑っていたようにも見えたよ。……気の所為かも知れんがね。 当たり前のようにというか、えらく自然に消えていったよ。 その後の漁かい?  そうだな、レヴィアタンの悪魔がいなくなって……オレ達の漁も変わったよ。10月を超えてもサディの海にはクジラが残るようになったし、1月より前にマグロがやってくるようになった……。  ああ、お陰で良い稼ぎになったよ。何しろ平和ってのは一番の金儲けさね。  いやいや、乱獲なんてしねーよ。『オレ達』はな。オレ達はよ、アイツらクジラやシャチに敬意を払ってんだ。  そりゃぁ昔は『たかが獲物が』と思ってたさ。けど、そんなところじゃぁねぇ。こちとらリサも違ってヤツらと言葉は通じねぇが、アイツらだって己の誇りと生存を賭けて戦っているんだって肌で知ったからな。  だから、漁の時はいつも全力で挑んだよ。  全力で真っ向からクジラと戦い……時には逃げられ、時には船を壊され、時には大物も仕留めたもんだ。  そうして全力でぶつかる事が、ヤツらに敬意を示す事だと信じているんでね。  『獲物に舐められてはいけない』ってキャプテン・シルバーは言っていたそうだが……オレ達も獲物達を舐めちゃぁいないよ。……決してね。  何で船を降りたのかって?  ふん! 馬鹿々しい話さ。悪魔かいなくなって『クジラやマグロを獲りすぎた』んだってよ。個体数が減ったらしい。まぁ……仕方ねぇさ。また元通り増えるまで、オレ達には待つ事しか出来ねぇからよ。 そりゃぁ確かにクジラがダメならマグロやカジキでも漁は出来るし、何なら魚でなくとも山で猪を追ってもいいし、畑で小麦を育てる道もあるだろう。何しろオレらは人間で……自由だからな。そうして第二の人生を歩んだ仲間もいたさ。 けど、やっぱりオレは捕鯨漁師なんだよ。そういう職ってだけじゃなく、骨の髄までクジラを追うのが染み付いてんのさ。だから、それで引退よ。今ではこうして昔話を思い出しながら呑んだくれてる、ただの酔っ払いさね。  ……それでお前さん、何を『確かめたかった』んだ?    え? ……お前の爺さんが『海で拾った黒いオウムが不思議な話をしていた』のを聞いたって? 断片的で荒唐無稽な神話のようだけど、実在する港や海の名前が出てくるんで、その真偽を確かめたくて来た……か。なるほど、そう言う事かい。  多分、そのクロオウムはリサが連れていたヤツだろうな。飼い主の辿った壮絶な物語を誰かに伝えようと……してたのかも知れん。 何、心配は要らねえ。リサの伝説と魂はオレら漁師仲間の間にしっかりと受け継がれてるからよ。ああ、間違いねえ。例え1000年経っても風化する事ぁ無ぇさ。  さ、乾杯しようぜ。お前さんもグラスを持ちな、注いでやる。  ……老いたオウムと、海に生きるクジラや漁師達に。そして歴史に名を残した勇敢で偉大なる漁師・リサに、乾杯!  完
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