冷たい博士と機械仕掛けの娘

序幕

　窓から差す木漏れ日を背中に受けて、少女は椅子に腰掛けている。
　どこに力を込めるでもなく、背もたれに身体を預け、どこを注視するでもなく、薄く瞼を開いている。
　生々しいほどに精巧に作られた少女人形だ。
　彼は少女を眺めて、そう思う。
　作り物じみた端整な顔立ち。
　流れる銀の髪。
　ま白い肌。
　瞼の奥に見える微かな蒼。
　生成り色のワンピースから細い手足が伸びている。
　男は椅子の前に膝をついて、力なく垂れ下がる少女の手を取った。
　たやすく壊れてしまう、不安なほどに華奢な腕。
　細い指の並ぶ手。
　己の手のひらにすべて納まってしまう小さなそれを、そうっと、頬まで運んだ。
　男の頬に触れ、小さな指がほんの微かに跳ねる。
　その反応にすがりつくように彼は彼女の手を改めて頬に押しつけた。

「フィリーネ。僕の声が聞こえる？」

　男の低い声が静かな部屋に控え目に響く。
　少女の薄い唇がぴくんと震えた。
　まだ彼女は夢と現実のあわいを彷徨う目をして、どこをも見ていない。
　男は祈るように頭を垂れ、もう一度だけ囁いた。

「さあ、もう目を覚まして。僕の名前を呼んで」

　両の手のひらで彼女の小さな手を包む。
　そうっと口付けて、大事なものを扱う慎重さで撫でた。
　繰り返し、何度も。