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「鉄棒の練習をしたの。私、逆上がりできないから、クラスの皆に笑われちゃって。笑われたくなくて、ずっと練習してた」
そのせいか、両手には錆びた鉄の臭いがこびりついている。
「へぇ。それで、できたの?」
「ううん。まだ。あとどれくらい練習すればできるかなぁ」
「さぁねぇ……。でも夢乃ちゃんももう小学四年生なんだから、できないことはできないって知ることも大事よ?」
意地悪なことを言うお姉さんに少し腹が立って、私は少し強めに言った。
「いつか必ずできるよ!お姉さん、私より大人なのにすぐ諦めるなんて意気地なし!」
「ふふ……。そんな日が来るといいね。まぁ、来ないんだけど」
馬鹿にするように笑うお姉さんはきっと、夢がないんだ。そう、夢を叶えたことがないからすぐ諦めちゃうんだ。私は違う。お姉さんみたいに簡単に諦めたりしない。
それより私は、まだ大事なことを聞いていないことに気がついた。
「ねぇ、お姉さんはどうしてここにいるの?ここは夢乃の家……だよ」
「ああ……」
お姉さんが私の目の前に置かれたコップを中指で弾いた。キィンと高い綺麗な音が静かなリビングに響いた。
「教えてあげようか」
「当たり前でしょ」
「教えてあげるけど、その前に。ほら、電気つけなくていいの?外も中も真っ暗でしょ?」
「いい」
私は夜目が利くから、お姉さんの顔もはっきり見えていた。誰かに似てるなと思ったけど、それが誰なのか分からない。
「そう。そうやって逃げるのね。まぁいいわ。あたしは綺羅。綺羅お姉さんって呼んで」
綺羅――。知らない名前だった。そういえば、私の宝物だったオルゴールが奏でるメロディーがきらきら星だったような……。
「あたしはね、夢乃ちゃん。あなたを殺しに来たのよ――」
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