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ちらりと横目で見た公園の時計は九時を回っていた。
この辺りまで来ると街灯もまばらで、住宅街を抜けてしまうと、ブランコと時計だけの寂しい公園まで、左右には錆びたガードレールと木々しか見えない。
人気もなく、この辺りは民家も無いため、この道を歩いているのは世界で私だけ。
ここまで来ればあと少し。緩い上り坂を道なりに進んでいけば、町ひとつ分を見下ろせる小さな丘に着く。そこにひっそりと建つ小さな木造二階建ての一軒家が私の家だった。
家が見えるところまで来て、一回立ち止まる。今日も電気はついていない。確認してから玄関に回った。
冷たい金属のノブを、期待を込めてそっと引いてみる。
――ガチャリ。
「あれ……?」
あれだけ固く開くことのなかったドアは、少し力を入れただけで簡単に開いてしまった。いつも鍵がかかっているのに。
鍵が開いている――。
そう思ったら、急に心臓がドキドキした。
静かにドアを開けて、暗い家の中に入る。閉める時にガチャリと小さく音が鳴って、口から心臓が飛び出そうなほど緊張した。
ひた、ひた……。
フローリングの廊下の冷たい感触が足の裏から伝わる。少し埃っぽくて、空気が重い。慎重に進むと、壁を滑らせていた左手が不意にガラス戸に触れた。暗くてよく見えないけど、ゴツゴツした手触りでそれがくもりガラスだと分かった。リビングへ続く引き戸だ。
暗いのは慣れているから、くもりガラス越しに見えた塊にもすぐに気づいた。
――誰かいる。
お客様?でも玄関に靴は一つもなかった。それにこんな夜遅くに何の用があるのか。耳元で聞こえる鼓動がうるさい。怖い。怖い。怖い。
私は意を決して、ガラス戸を引いた――。
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