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外よりも暗いのは、カーテンが全て閉じられているからだ。埃っぽいのは、長い間窓を開けていないからだ。
ギッという擦れるような音と同時に、何かが動いた気配がした。
「あら、おかえり。夢乃ちゃん――」
暗闇から聞こえた凛とした冷たい声に、私は思わず「ひっ」と悲鳴をあげてしまった。だって、知らない声だったから。
「学校は楽しかった?そうだ、夢乃ちゃんが好きなオレンジジュース、入れてあげよっか」
私よりも背の高い影が冷蔵庫に向かう。その人がブーッと低い唸り声をあげる冷蔵庫の扉を開けた時、パッとついた冷蔵庫の灯りが顔を照らした。
「あ、あった。良かったわね、夢乃ちゃん。オレンジジュースがあって」
綺麗な顔をしたお姉さんだった。たぶん、中学生くらい。逆三角形の大きな襟の胸元には真っ赤なスカーフ。セーラー服だ。一瞬見えたお姉さんの髪は私より長かった。
「どうしたの?ほら、座って」
私は恐る恐るダイニングテーブルに近寄った。
「コップは……これでいいわね」
お姉さんは汚れた食器の塔を避け、シンクの端でコップにオレンジジュースを注いだ。
「はい、どうぞ」
コトンとダイニングテーブルの上に置かれたオレンジジュース入りのコップ。そのガラスのコップは、飲み口のところにヒビが入っていて薄汚れていた。お姉さんは席についた。
「どうぞ」
「お姉さんはいいの?」
「あたしはいいの。それより座ったら?」
笑うお姉さんに釣られて、二脚しかない椅子の空いているほうに座った。
「学校は楽しかった?今日はどんなことをしたの?」
とても優しい声で言うから、知らない人だというのに私はつい話してしまった。
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