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「あなたと同じよ」
「同じ?」
「ここ、星見地区出身」
「へぇー!そうなんだ!じゃあ花火大会とか見たことある?」
この辺りは星見地区と呼ばれ、丘陵地帯で見晴らしが良く、この家が丘に建っていることもあり、花火大会の時期になると付近が騒がしくなる。
「あるわよ」
「いつ見たの?」
綺羅お姉さんはうつむいた。眉にかかる前髪が綺麗な顔を隠す。
「私がここを出る前に一度だけ」
「この丘から見たの?」
「違うわ。ここから道なりに進んだガードレール沿い。ああ、そういえば寂しい公園があったわね。花火大会の日とは知らずにブランコに乗ってたら見えたの。あれが最初で最後」
綺麗なものを見たはずなのに、綺羅お姉さんは全く嬉しそうに見えなかった。もしかしたら出て行くその日、嫌なことがあったのかもしれない。暗い心で見る綺麗なものは、たぶん綺麗過ぎて辛い。
あの公園のブランコ、乗ったことないな……。誰もいない公園の、錆びたメッキの時計。私はいつも上しか見てない。
「夢乃ちゃんは何度も見てるんでしょう?ちょうどこの家は小高い丘の上だし、一番綺麗に見えそうね」
綺羅お姉さんはカーテンが閉まった窓のほうを見つめた。夜より暗いこの家は、月明かりも星明かりも届かない。お姉さんは何も映さない窓の向こう側を知っているようだった。
「うん……。色とりどりの光が弾けるのを見たよ。爆弾が落ちたみたいなあの音も、ずっと前から知ってる」
夏が来るたび、家が揺れるほどの衝撃を感じていた。まぶたの裏にきらめく鮮やかな光に、目を閉じながら目がくらんだことを覚えている。
「でも花火大会は嫌い」
「赤色も花火も嫌いなの?夢乃ちゃんは嫌いなもの多いのね。駄目よ、目をそらしては」
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