190人が本棚に入れています
本棚に追加
はじまりはお金から
私はこの会社を大学に入ってすぐ、大学構内の掲示板で求人を見つけて知った。
決して聞いたこともない 企業名で、正直怪しいとすら思った。
けれどもその時の私は、毎日日給のチラシ配りをしなくては、教科書代も、サークル費も払えないほどお金に困っていた。
田舎から出てきたばかりの、なけなしの仕送りだけやりくりしないといけない私には、大学入学直後の出費は正直生きていける気がしなかった。
その時見つけた求人に書かれていたのは、地元では見たこともないほどの高い時給。
「憧れていた大学生活を謳歌できるかも」
そんな風に心惹かれて、その場で問い合わせメールを送った。
第一印象は とても物腰の柔らかそうな人。
だけどこの人とは結婚しないだろう という人だった
ぼさぼさの髪の毛。
顔に似合っていないダサいメガネ。
目の下には大きなクマ。
そして 少し黄ばんだヨレヨレのシャツ。
これが合コンであれば、速攻でお見送り案件だったろう。唯一の交換ポイントは、髭だけは跡がのこらないほど綺麗に剃っていたことくらい。
彼……社長は これまでのようにはなかったまだ誰も見たことがないサービスを生み出したいと熱い夢を持っている人だった 。
「自分の会社は起業したてで、正直今冬の極みだ…どうすればまともな会社になるのか全くわからない」
「はあ」
こんな弱みを、普通面談の初対面で話をするだろうか?そのあげく
「君ならどう解決する?」
と、解決法まで求めてきた。
冬の極み……の意味がいまいち理解はできなかったものの
「だって別にそれができないからといって……とても困るわけではないですよね、誰かが死ぬほど」
と私は返した。
その答えに彼は
「そうだね。死ぬほどじゃないかもしれないけど」
と、言葉尻を濁したが、少しだけ笑った
その後は、今どんなことを目指そうとしているのか、どんな人と一緒に働きたいのか、という会社側からの説明を聞かされていたが、 社長の目がその時だけはとても目が輝いていることだけが、面談が終わった後に残った唯一の私の記憶だった。
その後すぐ、教えたLINEに社長から
「いつから入れる?」
とだけ。
時給目当ての私は「すぐにでも」と返信を返し、次の日から勤務をすることに。
しかしそれが、私の大学時代を、青春とは程遠いものにしてしまうなんて、全く夢にも思っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!