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一年前。
母親が再婚をした。
相手は、少女より三歳年上の息子を持つ男性だった。
一度顔合わせをした時、二人はとても親切にしてくれた。
母一人・子一人で暮らしていた為に、苦労の多い母親には幸せを感じて欲しかったし、新しい家族が増えることを少女自身も楽しみにしていた。
その為、彼女も再婚には大賛成であった。
初めは、夢に見ていた様な理想の家族だった。
父親は大手企業の支社に勤めるそこそこの役職であり、休みの度に家族サービスと称してあちらへこちらへと連れて行ってくれた。
兄は聡明で県内有数の進学校に通い、生徒会に属する人望の持ち主であった。義妹の勉強も、解るまで丁寧に優しく見てくれた。
母と二人きりで暮らしていた時に不満はなかったが、父親や兄弟が居る生活というものへの憧れをどこかで感じていた少女は、毎日が嬉しくて楽しかった。
しかし一月も経つと、二人は豹変する。
隠していた本当の姿を晒したのだ。
仕事や勉強のストレスを発散するかの様に、母娘に毎日DVを繰り返した。
暗い表情の母と娘に何度か外から心配の声が上がったが、『再婚同士なので、まだ全てが巧くとはいきませんね』などと、外聞の良い父と兄にはぐらかされてしまう。
娘を庇い訳もなく二人に謝り、無慈悲な暴力に耐える母親の姿。
そんな姿を隠れて見守ることしか出来ない無力な自分。
母親に謝りながら、少女は毎日泣き腫らした。自分を責めた。
そしてその母親が、先月帰らぬ人となった。
持病と、そこへ連日行われるDVによるストレスが加わり、心身共に限界を迎えてしまったのだった。
少女は、益々自分を責めた。
再婚に反対していれば、母はもっと生きられた。
自分が強ければ、母を守れた筈である、と。
そうして毎日毎日、自分を責めに責めた。
しかし、義父と義兄には何も言えなかった。
葬儀こそ世間体もあり執り行ってはくれたが、義父と義兄の悲しむ姿は、少女にとって狂気じみた芝居でしかなかった。
そして葬儀が終わり落ち着くと、暴力の矛先は全て少女へと向かうことになる。
身体に不自然な怪我や痣が出来ても『母親を亡くして自棄になっている』と義理の父と兄が言えば、それが罷り通ってしまうのだ。
助けを求めようにも二人に一睨みされれば、恐怖で身体が凍り付いて声など出ない。
学校へも殆ど行けなくなり、義父と義兄の機嫌を窺いながら、そんな地獄の日々を過ごしていると言う。
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