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= 転 =
無機質なコール音は、五回目の途中で鳴り止んだ。
陽気な声が応答したのを確認すると、彼はあからさまに不機嫌な声で話し始める。
「おい、何が『卵の特売日』だ。お前の所為で厄介事に巻き込まれた。こっちが本当の狙いだったな?
――口先だけの謝罪は止せ。帰ったら覚悟しろよ。こっちは取り敢えず送らせるから、後はお前と爺さんで何とかしろ。俺はもう関わらない」
彼は自分の用件を伝え終えると一方的に通話を切る。
相手の諾否は確認しなかった。
「ねえ、『送らせる』って誰に?」
呆然と彼の言葉を聞いていた少女は、キョロキョロと周囲を見渡す。
だが彼以外の人影を見付けることは出来ない。
「……あれ?」
その代わりに、意識して周囲を見渡したことで、重大な事実に漸く気が付く。
「何か橋が光ってるんだけど」
少女の言う通りに橋は全体が淡い光に包まれており、橋の向こう側の闇と隔絶されていた。
「何なの? ここ、どこ……?」
遠くまでは暗さで分からないが、良く良く目を凝らして見れば、周りの風景にも全く見覚えがない。
そんな知らない場所に、何を目的にどうやって来たのかが分からない。
何かがおかしい。
全てがおかしい。
少女は自分が措かれている不自然な状況に、目に見えて動揺し始めた。
そして自身もおかしいモノの一つであることに気付くと益々狼狽る。
「私も光ってる気がするんだけど!」
その指摘の通り。
少女の身体は淡く光を発していた。
「本当に何なの!?」
今まで気付かなかったことが不思議なくらいに、有り得ない事態である。
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