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状況への理解が深まる程に混乱する少女に、彼は確信させる言葉を口にする。
「お前、身体は何処に置いてきた?」
「身体……? まさか、幽体離脱ってやつ?」
信じられないとばかりに目を見開く少女は、ハッとして彼の身体に触れる。顔・腕・胴体など、遠慮なくペタペタと。
「さっきからお兄さんに触れてるのはどうして? もしかして同族の方ですか?」
「……俺のことはどうでも良い。身体は何処だ?」
「どこって言われても……気付いたらここに居たんだもん」
少女の手を鬱陶しく払い退けて彼が再び確認するも、当の本人は要領を得ない。
橋の上に立っていること、手摺に触れること。
身体が無いと言うのなら、それらの行動もどうして可能なのか彼女は不思議で仕方がない。
知らない場所、発光する橋と自分自身。
あらゆる状況が不思議で不可解が故、現実味が希薄である。
それでもこれまでの遣り取りで、彼が嘘を吐くタイプではないことだけは確信が持てた。
「ねえ、何がどうなってるの? ……このまま死ぬの?」
感触を確かめる様に手摺に手を滑らせながら、少女が疑問を口にする。
仮にも自殺を視野に入れていた癖に、今まさに『死』と隣り合わせの状況に不安げな様子である。
「このまま死ぬかどうかはお前次第だ。身体に戻る気があるなら、方法はある。死にたければそのまま此処に居ろ」
彼は落ち着きのない少女にそう言うと、外套のポケットから赤い折鶴を一つ取り出した。
胸の前に差し出されたそれを、少女は彼の顔と交互に見遣る。
無言で選択を迫る彼の目は感情を映さず、出会った時から何も変わらない。
しかし少女は、自分の中から何か熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
(お母さん……)
身体の弱い母の為に。
元気になって欲しくて、昔は良く鶴を折っていたことを思い出す。
千羽まではとても折れなかったが、それでも母は喜んでくれていたことも――。
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