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或る朝の衝撃。そして二人は途方に暮れる ②
***
夢現に甘ったるい匂いが嗅覚を支配して、何だろうとずっと考えていた。
嗅いだことのある身近な匂いだ。何だかとても心地いい。
匂いを追って寝返りを打つと、枕から漂ってくることに気が付いた。ごそごそと枕の下を探ると、手に何かが当たった。それを握りしめて引っ張り出し、薄目を開けて手の中の物を確かめた。
(…誰だ……枕の下にこんなもの入れたの)
邪魔にはならないし、よく眠れた気がする。
小さな袋状のものを鼻に近付け、深く香りを吸い込む。花の匂いだ。
ぼんやりと思考を巡らせる。
(…なんだっけ、これ……あ~。そうだ…確か……ラベンダーだ)
手に握ったものはサシェと言ってポプリが入った物だ。
うちの家族にこんな趣味あんのいたっけ? と考えて、違和感に眉をひそめた。
恐らく見間違いだろう。寝惚けていたからきっと目の錯覚だ。
一度ギュッと固く目を瞑ってから目を開けた。目に飛び込んできた手は、見慣れたものから大きくかけ離れた小さくてちょっとぽっちゃりしている。目を離さず仰向けに寝がえりを打ち、腕をぐっと天井に向けて伸ばした。
やっぱりどう見ても違う。
(なんだ? これって夢かなんか?)
いつも通り勢いを付けて起き上がろうとして、体が言う事を利かなかった。途中まで行って引っ張り倒されたような感覚に、茫然とした。
(うん。やっぱり夢だな)
でなきゃ起きれない訳がない。
しかし何という夢を見てるんだか、奇天烈もいいとこだ。
頭をかしかし掻いて、指に絡まった髪の長さに目を疑う。顔に触れ、喉に触れ、胸に触れた。両掌に収まらないフワフワした感触は間違いなく乳房だ。何となくぎゅっと掴んでみた。リアルにそこに在る。
ゆっくり起き上がって胸元を見た。見た事もないパジャマのボタンを外して開けさせると、ぷるんと揺れた。直に触れ「お?」っと漏らす。にやっと笑って両の頂を抓んで軽く捻ったら、体がぴくりと震えた。
「おおーッ!? …ビックリするわ」
本当に夢なんだろうか、そんな不安が過る。手を下腹に滑らせ、本来そこに在るものがない事に焦りを感じる。恐る恐る上掛け布団を捲り上げ、ウエストのゴムを引っ張って中を覗き込んだ。ツルんとしている。
首を傾げて唸った。
(欲求不満か…? いや。ないない)
昨日しっかりヤッた。こんな夢を見るほど溜まっちゃいないはずだ。
(潜在意識で女になりたいとか……もっとないわ~)
男であることに、非常に満足している。
じーっと見入って、好奇心の向くままショーツの中に指を滑らせてみる。柔らかい茂みの上を通り過ぎ、クレバスの上をなぞり上げると花芯の上できゅっとなる。その未知の感覚にぶるっと震えた。
「なんだこれ」
指を滑り込ませ、敏感な部分に触れた。ぴくりとなって尾骶骨に言葉にしようもない感覚が走った。
「…女って」
ちょっと触れただけでこんなに気持ちいいのが、本当に夢なんだろうか? 夢だとしたら、気付かないうちに病んでいたのかも知れない。
(でもどうせ夢なら、遊ばない手はないよな)
秘所は全く濡れていない。
指をしゃぶって硬い蕾に湿り気を与え、花芯を指先で転がした。抓んで少し強めの刺激を与えると小刻みに震えて奥がきゅうっと切なくなり、膝を立てて突っ伏した。知らず吐息が零れた。
気持ち良すぎる。本能のまま指を擦り付け快感に身を委ね、蜜壺からトロトロと溢れて来た。ようやく準備が出来た膣内に指を挿し込もうとして、蕾の硬さに唖然とした。
(チッ…処女かよ)
折角こんなに気持ちがいいのに、興ざめだ。
(なんで俺が処女なんだよ。有り得ないだろ)
ビッチじゃない事に理不尽な憤りを覚え、顔を拝んでやろうと姿見の前に立った。
「…………え?」
思いもしなかった顔が映し出されていた。
赤茶けた直毛は肩で切り揃えられ、前髪も眉に沿ってばっつり揃えられている。どんぐりのような双眸は子犬のような愛嬌があり、丸い鼻先はあまり高くない。ぽってりとした唇と頬はほんのりピンクで血色が良く、つつきたくなるようなぷにぷに感。
彼女のイメージを一言で言い表すなら、豆柴。
虫の居所が悪い時だけしか用のない幼馴染み、和良品美佳。
「おいおいおい。何の冗談だよ。俺が美佳になりたがる訳ない」
従ってこれは夢じゃない。つまり……?
性的快感は本物で、どう言った訳だかいま自分は美佳なのだ。
何がどうしてこうなったんだろう。どうにも納得いかない。
「俺が “美佳” なら美佳が “優” ? すっげえ嫌かも」
言って一抹の不安。
「アイツに俺の体、任せんのかよ」
ここに美佳がいたらそっくりそのまんま返されるだろう。
安西優はパジャマのまま、慌てて家を飛び出した。
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