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旅人の一日
僕は薬草を売り歩いている、しがない旅人だ。
今日はスカボローの定期市に来ている。定期市はすでに、多くの人々で賑わいを見せており、周りからは人々の楽し気な声や商人たちの張りきった呼びかけが、広場からは小ネタ的な曲芸を演ずる人のキザな掛け声や子どもたちのはしゃいでいる声が聞こえてくる。
楽しそうにお喋りをして歩いている家族や幸せそうに買い物をしている恋人たち、追いかけっこをしている子どもたちを横目に、あちこちの露店の商品を見物しながら僕はある場所へと向かっていった。
🌿🌿🌿
僕は露店を開くため、連なっている露店の端まで来ていた。
露店とは言っても簡易的なもので、地面に専用の敷物をしき、その上に商品を乗せるだけだ。もちろん商品の下には商品をくるんでいた様々な色の布をしくし、薬草の名前が分かるように名札もつけておくつもりだ。
敷物を敷き終えた僕は、鞄から十数種類の薬草を傷つけないよう丁寧に取り出し始めた。薬草の種類や状態を確認し、それぞれを綺麗に並べていく。
「これはオランダゼリ……」
貧血の予防に効くこの薬草には『お祭り気分』という花言葉がある。商売をするには、まず自分から明るい雰囲気を出していかないとね。来てくれるお客さんも来なくなってしまう。
「これはサルビア……」
これは記憶力の向上に役立つ薬草。花言葉は『幸せな家庭』……だったかな。いつか素敵な奥さんをもらって、幸せな家庭を持ちたいものだ。
「これはえーと……マンネンロウ?」
確か記憶力の低下の防止の効果があったはず。今の僕にも必要かも……。花言葉は『誠実』だ。マンネンロウのような商売を心がけよう……なんてね。
「これはタチジャコウソウ……」
気管支炎に効果的らしい薬草。花言葉は『活気』だ。この薬草を買っていくお客さんには気管支炎を治して、元気になってもらいたいものだ。
ここの定期市にはオランダゼリやサルビア、マンネンロウ、タチジャコウソウが良く似合う。
僕はそんなことを思いながら、同じ調子で他の薬草も並べていった。
「そういえば……」
僕はふと、ずらりと並ぶ薬草を見て、ここに来るまでの道のりを思い出した。
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