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「分かりません。本当に、何も心当たりがないんです。先ほども申しましたが、あの子は人付き合いが苦手な子で……どうも周囲から浮きやすくて。
あの子の口から始めて聞いた友だちの名前が恵ちゃんなんです。多分、ほかの子とほとんど関わってないんだと思います」
「なるほど……。分かりました。引き受けたからには、必ず真実をご報告させていただきます」
引き受けたのは、半ば無理矢理だったけど。
なんなら、殺人事件なんて探偵として調査するのは初めてだ。
「よ、よろしくお願いします……!」
深くお辞儀をしてから、事務所を出るまでの間に何度も頭を下げた真理を見送った。
「……怒ってます?」
「そりゃあな」
上目の佐藤から機嫌伺いをされたので、ツンとそっぽを向いた。
「そうですよね。秋友さん、明らかに『めんどくせぇ〜。絶対引き受けたくない』って顔、してましたもんね」
「そんな顔してねぇよ」
「してましたよ〜?」
……そんな顔に出してたか?
自分では感情が顔に出にくいポーカーフェイスだと思っていたのだが。
「……でもね、あたし、どうしても助けてあげたかったんです。だって、理央ちゃんはまだ17歳ですもん。本当に罪を犯していないのなら、きっと輝く未来が待っているはずですからね」
どこか泣きそうな顔で、佐藤は俺の袖を掴んだ。まるで、親を探している幼子のような、しおらしい姿に何か悪いことをしたような気になってしまう。
「分かったよ。
ちゃんと調査してやるから、そんな顔するな」
くしゃり。佐藤の焦げ茶色の髪の毛を一つ撫で付ける。
佐藤が不機嫌になった時や、落ち込んだ時によく使う手の一つだ。単純な佐藤はこれだけでご機嫌になる。
「やった! で、で? どうします?」
ほら、な。
明るい声色で佐藤がはしゃぎ始めた。ちょろちょろと俺の周りを動き回っているので視界が煩い。
「……聞き込みするぞ。もちろん、お前も手伝えよ」
「ハイッ!」
元気よく返事をした佐藤に「ほら、行くぞ」と声を掛けて事務所を出た。
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