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《6月18日に──高校に通う遠山 恵さん(17)、教師の森下 昭雄さん(27)を殺害した容疑で17歳の少女が逮捕されました。
警察によると、少女は自供しており、素直に取り調べを受けているとのことです。コメンテーターの中尾さん。この件についてどう思われますか?》
《そうですね……。未来ある若者が、このような事件を起こしてしまうというのは実に悲しいことです。ですが、まぁ。本人もね、素直に自供しているとのことなので、是非更生していただきたいですよね》
何気なくテレビを付けると、美人と雑誌で紹介された人気アナウンサーと、どこぞのコメンテーターが神妙な面持ちで語っていた。
(17歳ねぇ)
成人すらしてない小娘が手を汚してしまうなんて
「物騒な世の中になっちまったもんだ」
その年頃の自分は何をしていただろうか。
……思い出せないが、ロクなことをしてこなかったんだろうとは思う。
「なぁ、佐藤。お前、人を殺したいと思ったことはあるか?」
報道番組を観ていた蒼司の後ろで、右へ左へと忙しなく動いていた佐藤という女に声をかける。
「はぁ?」という声が返ってきたので、テレビを指し示すと納得したように頷いた。
「何を言ってるのかと思えば……あぁ。
最近のニュース、コレばっかりですよね」
(そうなのか)
蒼司はテレビをあまり観ることはない。それ故に初見だったが、世間ではかなり話題に取り上げられているもののようだ。
「……まぁ、女子高生の殺人だからな。世間からも注目を浴びるんだろ。それより、今日の依頼は?」
いつの間にか蒼司の質問は流れていたが、いつものことなので2人ともそれに触れることはない。
というか、それどころじゃないのだろう。佐藤の目が死んだ魚のようになってしまった。振る話題を間違えてしまったようである。
「今日は……というか、今日も。ですね、依頼はありませんよ。いやぁ、そろそろこの探偵事務所も潰れるんじゃないですか?」
「滅多なことを言うな。……そんなにヤバイか?」
「正直、火の車です。選り好みせずに依頼を受けないと、やってらんないですよ。秋友さん」
そうか……。いや、でもなぁ。
秋友 蒼司は、この秋友探偵事務所のオーナーであり、探偵をしている。浮気調査や身辺調査。人探しなど、なんでもござれの超一流探偵(自称)だ。
ただいかんせん、不景気故か仕事が来ない。仕事が来ないと飯も食えない。これは由々しき問題である。
「あたしも、切り詰められるだけ頑張ってはいるんですけど……何せ、収入が0なので限界がありまして」
収入が0。耳の痛い現実に頭を抱えずにはいられない。
「あー……! この際なんでも良いから仕事降って来ないかなーっ」
依頼を! だれか依頼をくれぇー!
蒼司の切実な心の叫びだった。
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