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カランコロン。重厚感のある扉が開き、ベルの音が鳴った。扉に付けていて、来客が来るとすぐに分かるようになっている。
慌ててテレビの電源を切り、身支度を軽く整える。1束寝癖が発生しているが……ご愛嬌ということで許してもらえないだろうか。
「あの……こちら、『秋友探偵事務所』で合ってますか?」
来客は40代半ばであろう女性だった。女性は何やら、思い詰めたような顔をしている。
(浮気調査ってところか?)
我が事務所の依頼の6割ほどは浮気調査で占めているので、こういった女性が訪れるのは特に珍しいことではない。
にしても、夫の浮気でここまで思い詰めているとなると、よほど愛情を持っていたようだ。
「はい! こちら、秋友探偵事務所です! どうぞどうぞ、こちらへお座りください!」
女性は、待ちに待った依頼主の登場に張り切っている佐藤の案内に頷いて、ソファーに腰をかけた。
「コーヒーか、緑茶。あと紅茶にココアがありますけど、どれに致しましょう?」
ここは喫茶店か何かかと思うほどのラインナップだ。
蒼司はそんなもの知らないので大方、佐藤が持参してきたものだろうが……。
まさか自腹で買ってきたわけじゃないだろうな。
客に出すのならちゃんと経費で落としておいてもらわないと。……落とすための経費がないけども。
「えっと……コーヒーでお願いします」
「はい! 少々お待ち下さいね!」
女性の注文に元気よく応じ、駆け足でキッチンに向かった佐藤を目で見送り、
「こんにちは。わたくし、秋友探偵事務所の秋友と申します。コレ、名刺です」
名前と事務所名、職業を書いただけのシンプルな名刺を渡した。
女性は物珍しさと緊張からか、きょろきょろと視線を彷徨わせている。
「あ、はい。えっと、私、柳原 真理と申します」
「柳原さん。どういったご用件で?」
「あの、私。最近報道番組で見る、殺人事件の容疑者の母親なんです」
浮気調査だと思ったが、どうやら違うらしい。
……殺人犯の母親、これから大変そうだ。世間の目とか、色々厳しいだろう。
「その、殺人事件というのは……女子高生と教師の……」
「……えぇ」
空気が、重い。
そりゃそうだろと思うかもしれないが、蒼司は元来軽薄な人間だ。ずっと軽くノリで生きてきた蒼司にとって、重苦しい雰囲気はキツイものがある。
空気に押し潰されそうな息苦しさを感じて眉間に皺を寄せた。
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