その少女

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「どうぞ。アイスコーヒーで良かったですか?」 「えぇ。ありがとうございます」 佐藤に軽く頭を下げた柳原が、蒼司を見つめた。その目はだんだんと潤みを帯び、ついには滴が頬を伝い落ちていく。 「私の娘は、人を殺してなんかいません。どうか、どうか助けてください……ッ」 「お、落ち着いてください! ちょ、秋友さん! ティッシュティッシュ! 早く持ってきてくださいよ!」 慌てる佐藤に箱ティッシュを渡し、宥めるのを任せた。こういうのは男の自分より、気配り上手な佐藤の方が向いているもんだ。 なんとも気不味い雰囲気ではあるが、5分ほどで落ち着いた真理に一先ず安堵した。 生憎、女性の涙を見る機会なんて今までなくてな。あったとしてもお断りするだが。 「お話、聞かせてもらえますか?」 佐藤が穏やかな声で真理に問うた。真理は頷いて、ゆっくりと口を開く。 「私の娘……理央は、殺人の罪で拘留されています」 「確か、自首でしたよね? 本人がやったって言うんなら、それが事実なんじゃないですか」 報道で観たことを口に出すと、 ギロリ。 佐藤から 「何言ってんだオメェはよぉ? アァン?」 という元ヤン上がりの鋭い睨みを効かされたので慌てて口を閉じる。 「理央が殺したといっている遠山 恵さんは、理央の親友ですし、森下 昭雄さんに至っては生徒指導の先生らしいのですが……殆ど関わりがないはずなんです!  親友と殆ど関わりのない人を殺すような娘ではありません! どうか、どうか助けて下さい……!」 言いながら感極まってきたのだろう、再び真理の白い頬を目から溢れ出た雫が伝った。 「親友を殺害ねぇ」 思春期真っ只中とはいえ、どんな揉め事をすればそんなおおごとになるのだろうか。 佐藤が真理のついでにと注いでくれたアイスコーヒーを口に含む。 (やれやれ、最近の若い子は怖いもんだ) 「何か、揉め事があったとか。そういう話は聞いてませんか?」 「ありえません」 佐藤が尋ねると、即答で否定の返事。それも…… 「ありません、じゃなくて……ありえない? 何故そう思われるのです」 親として、娘を信じたいという気持ちは分かるが。 友人関係にあるなら、揉め事の1つや2つあるものだろう。 もしかしたら、伝えていないだけでかなり揉めていたということもある。今時、なんでもかんでも親に伝える子というのは希少だろう。 それを一切考慮せず、「ありえない」と答えるのか。「聞いていない」ではなく? それとも、親というのはそういうものなのだろうか? (わかんねぇな。想像できねぇ) 頭を振った。いけない、今は話を聞かなくては。 「あの子、人付き合いが苦手で……周囲から浮いていたみたいなんですけど、恵ちゃんが話しかけてくれるようになって喜んでたんです。 『私、今凄く学校楽しいよ。恵がね、話しかけてくれて、少しずつだけど、周りからも受け入れてもらってるような気がするんだ。恵のおかげ』 なんて言うくらい……。 あの子は恵ちゃんに感謝していたんですよ? だから、恵ちゃんと揉めて殺すなんてこと、できやしません!」 と、強く訴えてくる。 (弱ったなー) 蒼司はあくまで探偵であって、刑事でもなければ弁護士でもない。 よく、探偵が警察を差し置いて事件を解決するテレビ番組があるらしいが、それはあくまでもドラマの話だ。 実際に殺人事件の捜査なんて、ほぼほぼやらない。 ましてや、本人が自首をしているという状況を鑑みても、依頼主の希望に添えることはまずできないだろう。 (断るか。収入源が無くなるのは痛いが……) 口を開いた瞬間。
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