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 繁華街を進む中、そのうち、改めて伊織が言葉を紡ぎ始める。 「ボスからの召喚命令」 「なんの用事だってんだ?」 「さあね。寄れとしか言われてない」 「明日じゃダメなのかよ」 「ダメなんだよ。それくらいは悟れ、後輩」  ちっと舌打ちが漏れた。面倒な話だと思う。今すぐ家に帰ってシャワーを浴びて酒をかっくらってベッドに入りたいからだ。けど、上司の指示とあれば従わないわけにはいかない。ただの兵隊に過ぎない俺からすれば、やむを得ないことだ。  俺と伊織が属している組織の名は『治安調査会議』という。  略して『治安会』。  仕事は警察と同じような内容ではあるものの、なんでも屋的な側面も多分にある。とことん多岐に渡るということだ。縄張りはここ、神戸沖にある人工島、いざなみ県、いざなみ市。ありとあらゆる決定権、それに経済の中心が東京に一極化していることは旧来から問題点とされていた。それを解消すべく、政治の中心が当該に移転された。運用が始まったのは五年前、二千四十五年のこと。まだまだ真新しい土地であるわけだが、ようやくサマになってきたと言ってやってもいい。  街を抜け、やがて交通量の少ない道路に出たところで、俺は煙草に火をつけた。アメスピだ。パッケージは緑色。タールは九ミリ。中学生の時から吸っている。そのへんのダチより付き合いは長い。 「アメスピって臭いよね」 「うるせー。パーラメントなんていうお高くとまったもんよりずっとマシだ」 「それはそうと、たばこ税、また上がるんだってさ」 「マジかよ」 「マジマジ。裏情報、パーペキ」 「ったく。財源に困ったらすぐに値上げしやがんだから、喫煙者からすればたまったもんじゃねーよな」 「そうだよね。偉そうにしてるばっかりで、ホント、政治家ってのはろくな仕事しないんだから」 「死ねってか?」 「中指立てるくらいはしてやりたいね」
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