21人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
3.
最寄りの駅までスイフトスポーツで送ってもらい、残りは歩いて、自宅のマンションまで戻った。
リビングで服を脱いで、早速、シャワールームへ。
まずは立ったままシャンプーを使う。
以前は伸ばしっぱなしのぼさぼさ頭だったのだけれど、ある時、伊織に無理やり美容室に連れていかれ、不本意ながらもそこで整髪されることとなった。重めのマッシュにニュアンスパーマというらしい。以来、同じ髪型で通している。ゴツい俺には似合わないチャラいヘアスタイルだと個人的には思っている。だけど、特にスタイリングしなくてもそれなりにこざっぱりとして見えるのはポイントが高い。だからまあいいかと割り切ることに決めた。
脱衣所にてバスタオルで体を拭いている最中にインターホンが鳴った。
こんな時間にどなた様のご来訪だろうと思いつつ、腰にタオルを巻きつけ、玄関の戸を開けた。
途端、「きゃっ」という短い悲鳴。
お隣の橋本さんではないか。少し年上であろうくらいの女性だ。下の名前は紫苑さん。実に綺麗な名前だ。柔らかにウェーブしている黒髪に、ことのほか細い体つき。はっきり言って、物凄く好みのタイプだ。なんというか、こういう表現は失礼に違いないのだろうが、少し枯れた感にとてつもない魅力を感じてしまうのだ。抱きたいと思うのも無理はないという話である。俺からすればの話ではあるが。
黄色いエプロン姿の橋本さんは、両手で顔を覆ったままでいる。
「あの、その、本庄さん、その……」
「すみませんッス。すぐに服、着てくるッスから」
「ぜひとも、そうなさってください」
「了解ッス」
寝室に置いてある収納ケースから取り出したボクサーパンツとハーフパンツをはき、上にはTシャツを着た。それから玄関に戻ってドアを開けると、橋本さんは、ほっとしたような表情を浮かべた。
「すみません。こんな夜遅くに」
「いいッスよ。それで、なんの用スか?」
「あの、その……」
口籠る橋本さんを押し退けて顔を覗かせたのは、彼女の息子である元英知だ。小学三年生のガキんちょのくせして遅寝もいいところだ。こちらが「早く寝ちまえ」と言う前に、「よぉ、朔夜、今日も元気か?」とかクソ生意気な口を聞いてきた。すかさず、橋本さんが「元英、こ、こらっ」と窘めた。「貴方は本当にいつも、偉そうなことを言って」と自らの子に注意し、こちらに向かって申し訳なさそうに頭を下げる。
最初のコメントを投稿しよう!