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「すみません、すみません。いつも息子が失礼をしてすみません」 「かまわないッスよ。そんなことより、ホント、なんの用事スか?」 「あっ、はい、その、実は肉じゃがを作りすぎちゃって……」 「肉じゃが?」 「はい……」 「母ちゃん、隠してどうすんだよ。嘘つくなよ。ちゃんと言えよ。朔夜のために多めに作ったんだって」 「だ、だから、こら、元英っ」 「なあなあ、来いよ、朔夜。母ちゃんの肉じゃが、メチャクチャ美味いんだぜ? 知ってるだろ?」  元秀の言う通りだ。その旨、よく知っている。肉じゃがに限らず、橋本さんが料理上手であることもとてもよく知っている。  橋本さんはやっぱり申し訳なさそうな顔をしながら、こちらを見上げてきた。 「あの、よろしければ、その……」 「えっと、いや、でも、悪いスから」 「そんなこと、ないです……」  その時、俺の腹の虫がぐぅと()を立てた。その途端、元英が「ぎゃははっ」と笑った。 「なんだよ、朔夜。おまえ、腹へってんじゃんかよ」 「うるせーよ、馬鹿。大人同士の付き合いには礼儀ってもんが必要なんだよ」 「えー、いいじゃーん。来いよ、来いよぉ。おまえにメシ食ってもらえると、母ちゃん、メッチャ喜ぶんだぜ?」 「だ、だから、元英っ」  確かに空腹は感じている。でも、帰りの途中、コンビニで弁当を買ってきた。そうでなくたって、ここ最近、橋本さんにはなにかと世話になりっぱなしであるように思う。そのことを悪いと感じるくらいの常識は俺自身、持ち合わせているつもりだ。  だけど、しとやか極まりない橋本さんに上目遣いで「いかがですか……?」とか「食べていただけませんか……?」とか、いじらしく言われてしまうと、断るなんて真似は不可能だ。コンビニ弁当くらい余裕で廃棄できる。 「ごちそうになりますッス」 「いいんですか?」 「はいッス」  橋本さんは「よかったです」と言って、満面の笑みをこしらえてみせた。「ほら、とっとと来いよ、朔夜」と手を引っ張るのは元英だ。かくして二人の家にお邪魔することになった。
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