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ダイニングテーブルへと案内され、背もたれがついた木の椅子に腰を下ろすと、正面に座った元英が身を乗り出してきた。「スゲーっ、やっぱ超スゲーっ」などと言いながら、俺の右の二の腕にべたべたべたべたと触れてくる。
「朔夜の腕、やっぱスゲーよ。ハンパねーよ。なんだよ、この太さ。丸太かよ。カッコよすぎるっての」
「最近は頼りねー男のほうがモテるみたいだぜぇ」
「そんなの馬鹿女のセリフだよ。細マッチョとか、ホント馬鹿みてー。ゴツくなけりゃ男じゃねーだろっての」
「相も変わらず達者な口だ」
「普段はメシ、なに食ってんだよ。たとえば、今日の昼飯とか」
「蕎麦食って、プロテイン飲んだな」
「そっか。やっぱプロテインとか飲むのか」
「普段はあんま飲まねーけどな。つーか、ガキにオススメできる食生活じゃねーぞぉ」
「ってかさ」
「あん?」
「朔夜ってなんの仕事やってんだよ。ずっと訊きそびれちまってた」
「警察官みてーなもんだ。ちょっと違ってるけどな」
「でも、公務員だってことか?」
「ああ」
「給料は?」
「悪くねーよ」
「スゲーじゃん」
「スゴくはねーな」
元英がキッチンのほうを向いて、「母ちゃーん!」と声を発した。「朔夜は公務員なんだってさー。給料も悪くないんだってさーっ!」と言い、「朔夜と結婚すれば安心安定だぜーっ!」とか抜かした。するとキッチンにいる橋本さんが、「こ、こら、元英っ」と例によって窘めた。
「あんまり本庄さんを困らせないのっ」
「困ってんのかよ、朔夜」
「別に困っちゃいねーよ」
「だってさー、母ちゃん」
「もう、ホントに、元英ってば、もうっ」
地団太を踏まんばかりの橋本さんの口振りである。清楚で可憐。可愛いというか、愛おしい。やっぱり果てしなく好みなんだよなあと思う。一度でいいからヤってみたい。乱れるところを見てみたい。だがしかし、それはゲスの考えというもの。セックスというストレートな単語と彼女とを結びつけるなんて、絶対にしてはならないことなのだ。
橋本さんがテーブルに肉じゃがとサラダと白飯、それに、ちくわとかまぼこを並べてくれた。彼女は元英の隣の席につくと、「ちくわとかまぼこは、取り合わせとしてはイマイチかもしれませんけれど」と言い、眉尻を下げて微笑んだ。全然、イマイチな取り合わせではないと俺は思う。つーか、やっぱり物凄く抱いてやりたいな。空腹でも性欲が勝るあたり、俺はヘンタイなのかもしれない。
「これ、いいちくわとかまぼこッスよね?」
「わかりますか?」
「まあ、見た目でなんとなく」
「実家から送られてきたんです」
「ご実家はどちらなんスか?」
「長崎です」
「へぇ。その割には、まるっきり訛りがないッスね」
「こっちでの暮らしも、もう長いですから」
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