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夕食をまるっとたいらげ、「ごちそうさまでしたッス」と合掌。「ありがとうございましたッス」と頭も下げておいた。すると、橋本さんは「おそまつさまでした」と言って、やはりにこっと笑ったのだ。
「これだけ綺麗に食べていただけると、とても気持ちがいいですし、とっても嬉しいです」
「今さらですけど、橋本さんって、なにを作らせても上手いッスよね」
「中学生の頃からかしら。料理が趣味になったんです。私、ぶきっちょなので、最初はしょっちゅう失敗しましたけれど」
「旦那さんだった男は幸せ者ですね」
そう言ったところで、あちゃあ、と思った。ここに来てついに失言をかましてしまった。伊織から「脳みそまで筋肉でできちゃってるんじゃないの?」と指摘されることがしばしばあるのだが、実際、そうなのかもしれないと思わざるを得なかった。
橋本さんは苦笑いのような笑みを浮かべた。大きく舌を打ったのは元英だ。「死んじまえばいいんだ、あんなヤツ……」と忌々しげに言った。「俺と母ちゃんを捨てて、他の女と一緒になったんだから……」と続けた。
俺は「元秀はそのこと、知ってのか」と訊ねた。
「なんだよ、朔夜。おまえには話しただろ?」
「まあ、そうなのかもしんねーけど」
「そうだよ。ってか、ごめん。いつもおまえのこと、おまえおまえって呼んじまって……」
「いいよ。んなこと、気にすんな。おまえはおまえで、あっていい」
「私は、心苦しいんですけれど……」
「いいんスよ。橋本さんちの元秀君の相手くらいは、俺だってうまくやれると思うッスから」
「母ちゃん、いつも泣いてたんだ……」
「だから、元秀」
「ゆるせねーよ、俺は。あいつだけはゆるせねー」
「元秀っ」
「橋本さん」
「は、はい」
「元秀の気持ちを汲んでやることはできないッスか?」
「それは……」
「両親のことですから。こいつはこいつで、思うところがあるんスよ
自分が言っていること。
俺はそれを正解だとは思わないし、だけど、間違いだとも思わない。
元秀はしっかりしたガキんちょだ。
だからこそ、気になったんだろうなって。
親父とおふくろの不仲が、気になっちまったんだろうなって。
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