21人が本棚に入れています
本棚に追加
「今でも時々、考えるんです。私のなにが至らなかったのかな、って……」
「至らなかったところなんて、なかったんじゃないスかね」
「だったら、どうして私は愛してもらえなかったのでしょうか……」
「だから母ちゃん、それはあいつが――」
「黙ってろ、元英」
「なんでだよ」
「いいから、黙ってろ」
「……ちぇっ」
「俺なんかは、橋本さんの前の旦那って、今頃、後悔してるんじゃないかなって思うんスけどね」
「そうでしょうか……」
「ええ。橋本さんより、いい女房なんていないと思うッス」
「優しいんですね、本庄さんは」
「本音っつーか、本心を言ったまでッスよ」
「なあ、朔夜。そこまで言ってくれるんだったらさ、やっぱ母ちゃんのこと、もらってやってくれよ」
「も、元英、こらっ」
「えー、いいじゃんよー。朔夜とならキャッチボールもできるし。あいつなんて運動神経ゼロだから、まともにボールも投げられなかったんだぜ?」
「気持ちはわかっけど、自分の親父をあいつ呼ばわりするのは感心しねーな」
「あいつはあいつでしかねーじゃんよ」
「つっても、実はおまえに会いたがってるのかもしれねーぜ?」
元英は口籠り、俯いた。「……俺は会わねーぞ」と呻くように呟く。絞り出すようにして「……会ってやったりするもんか」とも言った。
俺は右手を伸ばして、元英の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でてやった。ガキに優しくしてやるなんて、まったくらしくない、らしくない。
失礼する時、二人は見送ってくれた。
「またいらしてくださいね」
「そうだよ。また来いよな」
などと言われてしまった。まあ、ありがたい話ではある。そうでなくとも、再び二人から誘われるようなことがあれば、断り切れないだろう。
寝室に入りベッドの端に腰掛け、サイドテーブルに置いてあるジョニ黒に手を伸ばした。飲むのはやめておいた。実に美味かった肉じゃががおさまっている腹の中に、アルコールを流し込むのは勿体ないと思ったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!