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「今でも時々、考えるんです。私のなにが至らなかったのかな、って……」 「至らなかったところなんて、なかったんじゃないスかね」 「だったら、どうして私は愛してもらえなかったのでしょうか……」 「だから母ちゃん、それはあいつが――」 「黙ってろ、元英」 「なんでだよ」 「いいから、黙ってろ」 「……ちぇっ」 「俺なんかは、橋本さんの前の旦那って、今頃、後悔してるんじゃないかなって思うんスけどね」 「そうでしょうか……」 「ええ。橋本さんより、いい女房なんていないと思うッス」 「優しいんですね、本庄さんは」 「本音っつーか、本心を言ったまでッスよ」 「なあ、朔夜。そこまで言ってくれるんだったらさ、やっぱ母ちゃんのこと、もらってやってくれよ」 「も、元英、こらっ」 「えー、いいじゃんよー。朔夜とならキャッチボールもできるし。あいつなんて運動神経ゼロだから、まともにボールも投げられなかったんだぜ?」 「気持ちはわかっけど、自分の親父をあいつ呼ばわりするのは感心しねーな」 「あいつはあいつでしかねーじゃんよ」 「つっても、実はおまえに会いたがってるのかもしれねーぜ?」  元英は口籠り、俯いた。「……俺は会わねーぞ」と呻くように呟く。絞り出すようにして「……会ってやったりするもんか」とも言った。  俺は右手を伸ばして、元英の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でてやった。ガキに優しくしてやるなんて、まったくらしくない、らしくない。  失礼する時、二人は見送ってくれた。 「またいらしてくださいね」 「そうだよ。また来いよな」  などと言われてしまった。まあ、ありがたい話ではある。そうでなくとも、再び二人から誘われるようなことがあれば、断り切れないだろう。  寝室に入りベッドの端に腰掛け、サイドテーブルに置いてあるジョニ黒に手を伸ばした。飲むのはやめておいた。実に美味かった肉じゃががおさまっている腹の中に、アルコールを流し込むのは勿体ないと思ったからだ。
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