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 駅前のロータリーで待っていると、すっかり見慣れた黄色のスイフトスポーツが滑り込んできた。くわえ煙草のまま助手席に乗り込み、吸い殻を灰皿にねじ込んでやる。伊織が冷たい缶コーヒーを寄越してきた。珍しい。思いもよらぬ大出血大サービスだ。  車が発進した。 「まったくもって、最近、ろくすっぽ仕事がねーよな」 「あら。ご不満かしら?」 「いや。無意味なデスクワークに追われてた刑事時代と比べると、かなりありがたいもんだよ」 「今日は仕事」 「ほぅ。そうなんか。ドンパチやらかすのか?」 「そんなことにはならない。あんた、血の気が多すぎ」 「血の気が多いとか、おまえにだきゃ言われたくねーな。んで、どんな仕事なんだ?」 「強盗犯の逮捕。正確に言うと、殺しもやったんだけど」 「一人か?」 「三人組」 「ヤサは?」 「それがわかってるから、今、向かってる」 「ウチの『情報部』は優秀だな」 「警察よりはね」 「そう言うなよ。奴さん連中から話を提供してもらうこともあるんだからよ」 「提供してもらってるんじゃない。いっさいがっさい吸い上げてるの」 「ま、それもそうか。つーか、そうすることが可能だってんだから、後藤さんはハンパねーよな」 「古参の某議員と非常に仲良し。利害関係者しか知らないことだけど、警察はおろか、軍にも顔がきく。たとえば海ね。前にも言ったでしょ?」 「そうだったっけかな」 「おとぼけ」 「自覚してるよ」  俺は缶コーヒーの口を開け、一口飲んだ。 「あー、くそ。なんでこう、缶コーヒーってのはまずいかね」 「せっかく買ってあげたのに文句を言うわけ?」 「まずいもんはまずいんだから、しょうがねーだろうが、大先輩殿」 「うるさい」 「ああ。悪かったよ」 「ところで」 「あん?」 「最近、なんで待ち合わせの場所が駅前なわけ? マンションまで迎えに行ってやるって言ってるのに」 「それはまあ……いろいろあってだな」 「女でもできた?」 「で、できてねーよ」 「なぜ、どもる?」 「いいから黙って運転に集中しろよ」 「コーヒー」 「あん?」 「飲まないなら、ちょうだい」 「ほらよ」  伊織はごくごくとコーヒーを飲み干した。ホルダーに空き缶を置く。 「確かにまずいね」 「だろ?」 「私、実は紅茶派だし」 「知ったこっちゃねーよ」 「飛ばすよ」 「あいよ」
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